会議室――
会議室――



納得いきませんよ、なんでこんな…





はぁ、お前も強情だねぇ…


彼女が納得のいく理由を出さない限り、自己紹介はおろか、麻白ちゃんを預かることもできない。
でも、彼女は、【無能力排斥派】の思想に生きているみたいだから、私たちがいくら説得しても寝耳に水、右から左に流れてしまいかねない。かといって、社長の腐れ縁らしい桐島さんの部下である以上、今後顔を合わせることはたくさんあるに決まってる。



今回の案件で、できるだけ、距離は詰めておきたいな…





どうしたら…





寿羽お姉ちゃん?
どうかしたの?





ううん、なんでもないよ。





麻白ちゃんは、まだこんなことは知らなくっていいんだ。だって、麻白ちゃんは…あれ?そういえばこの子、どっちだ…?


ふと、麻白ちゃんが≪超能力者≫か、≪無能力者≫のどちらか聞こうとした、その時だった。



ひっ…!


机が、大きく叩かれる。その音に、麻白ちゃんは怖がって私に抱き着いてきた。私はそれに応じながら、音の発生源の方を向く。
生憎と、麻白ちゃんの頭で隠れてしまうが、それでもはっきりわかる。---まだ、納得のいかない彼女が起こしたのだろうって。



強情でも構いません!
こんな、「普通以下」の人間に頼むなんて正気じゃないこと、やめていただくまでは何を言われても…


またしても叩かれたのは机。でも、それは彼女の言葉を遮るためもののようだった。



あー…悪いな。


桐島さんはそういって、机から手を離して、私を見た。
…なんとなくだが、これから言われることに想像がついて、この人は本当に優しい人なんだなと思ってしまった。



寿羽…ちゃん、だったか。





…はい、合ってますよ。





悪いが、その子連れて、ちょっと外出てくれねぇか。


その子。
それは、まだ幼い麻白ちゃんのことだということはすぐに分かった。彼女がいま、私にべったりだから、桐島さんは私を名指ししたんだろう。
――――麻白ちゃんに、これ以上のことを聞かせないようにするために。



分かりました。
…えっと、しばらく麻白ちゃんと、この辺り散歩してきますね。


私は、麻白ちゃんと目を合わせるようにしゃがんで、彼女の手を祈るように胸元で握った。



麻白ちゃん、今からお散歩行こっか。





……。





うん!寿羽お姉ちゃんとなら!





それじゃあ、私と麻白ちゃん、少し出ますが…。
社長、みなさん、あとはお願いします。


私は、麻白ちゃんの手を握って、ゆっくりと会議室をあとにした。
寿羽が依頼人の麻白を連れいなくなって。



汐音。寿羽の居場所の追跡は端末でも可能か?





前、涼さんが脱走した時に使ったのが使えれば。
ただ、起動に少し時間はかかるけど。





構わない。
一応、依頼はもう始まっている認識で動く。





了解、なにかあったら報告する


春華は、彼女の身の安全と依頼を遂行し始めた。
まず、ハッカーでもある汐音に寿羽の居場所の追跡を任せる。



桐島さん!どうして彼女を外なんかに…!
もし、誰かに襲われたりしたらどうする…





いっ…!





なにするんですか!





なにって、平手打ちだよ。
口で言ってきかねぇなら、しかたねぇだろ。





相変わらず、手が出るのはえぇ…。
女相手にも容赦なしかよー、流石すぎる…。





昔、何度も受けてたなぁ…。涼が。





いいか、一回しか言わねぇからよーく聞けよ。





お前の考え方なんざ、知りたかねぇんだ、こっちは。どうだっていいんだよ、んなもん。





たかが、普通より違う力があるからってうぬぼれんな。人間の価値は、そんなもんでほいほい決められねぇんだよ。





……しかし、もし、彼女を保護させることが目的なら、なにもここでなくとも…!!





そりゃあ、こいつらと同じだから…って、あー、そうか。お前には情報いってなかったのか…。





天根 麻白は、≪無能力者≫なんだよ。





桐島さん、それ…初耳なんですが





でも、まだ幼いんだし、発現してないってだけじゃない?成人になっちゃうと期待薄いけど、稀に大学生とかで遅く発現する人もいるって聞くけど





ま、尚の言う通りかもしれねぇが。
だとしても、いまは≪無能力者≫だ。





下手に≪超能力者≫の事務所に預けるより、あの子と同じ≪無能力者≫のいる場所に預けるのが、あの子のためにもなるだろ





確かに…。
肩身が狭い思いは、幼いうちに覚えなくてもいい…。





桐島さんは、彼女の為を思ってここに依頼を……?





納得できないなら、しなくても構わねぇよ。ただ、もう依頼はしてある。その前提は覆らねぇし、覆させねぇ。





【無能力排斥派】思考が、そう簡単に変わるとは思ってねぇし。
とりあえず、長い目で見極めてみな。





言われてみれば、私はまだ、この会社をよく知らない…。先入観だけで、人を判断するのは、刑事としてあるまじきこと…。





…そう、ですね。
見極めて、みるのもいいかもしれません。この場所が、どんな仕事をしているのか…。





今までの無責任な発言、撤回させてください!





は……?!


机を盛大に叩いて、彼女は目を伏せた。
先ほどから、端末に目を遣っていた汐音は思わず声を上げる。



すべては、先入観で物事を見てしまっていた私のせいなのです。





遅くなりますが、自己紹介を。
【超能力捜査課】に所属する、小池 香純(こいけ かずみ)と申します!





お、おぅ…?





しかし、まだ今回の件、納得はしていません!
ですから、今後、あなた方の仕事ぶりを拝見し、見極めさせていただきますので、どうぞ、よろしくお願いいたします!!





お、おお!?
よくわかんねぇけど、かかってこいやぁ!!





この人、猛烈にめんどくさいタイプの人だ!!





名前のこと、あとで寿羽に連絡をいれなければな





全く、急に姿消すの、やめてほしいわぁ





ふふ、ごめんなさい。





貴方なら、ここにたどり着いてくれるだろうって思っていたから、つい、意地悪したくなってしまったの。





まあ、嬉しいこと言ってくれるじゃない?そんなに褒めても、なにもあげられないわよ~





それで、貴方がお屋敷に来るのは、なにか報告があるからなのでしょう?話して貰えるかしら。





動きがあったみたいなのね、針に魚が食いついたって言った方がいいかもしれないわ





せっかく見つけたお仲間候補、『原石』の女の子…。





それはそれは、喜ばしい報告ですわね…!





勧誘にはどなたが?





あの双子に行ってもらうことにしているの。
ほら、相手は幼いのだし、オトナが行ったら怖がらせてしまいそうなんだもの





失敗しても構わないですわ、ただ、大げさに行動することに意味があるのだと。
……そう、双子に伝えてもらえるかしら?





はぁ~い、任せて





お嬢様ぁ?どちらにいらっしゃいますか?





あら、……では、またね。
今度の報告は、別の場所にしましょう。考えておくわ





さぁて、アタシも頑張っちゃいますか!
愛しい愛しい総括ちゃんのために、ね


「思想家」② 完
~第三章に続く!!~
