藤松は鮫野木を無視して、野沢のもとへと歩き出した。



鮫野木、そこをどいてくれないか?





無理なんだよな~





目と耳を塞げば良い。見て聞こうとするから罪悪感が出てくるんだ。俺に任せてれ。終わらせる





殺すのか?





…………


藤松は鮫野木を無視して、野沢のもとへと歩き出した。



おいおい、待てよ


鮫野木は腕を伸ばして、藤松の肩を掴んだ。



止めるなよ





たく、わっかんねぇよ。何があったんだ、何で野沢を狙ってるんだ!





離せよ





やだ


藤松は肩を握った腕を掴み、突き放した。鮫野木はのけぞり倒れそうになる。



藤松……





悪いな、後でいくらでも言えば良い。ただ、今だけは邪魔をしないでくれ


そう言うと藤松は野沢を睨み付けて、歩き出した。



くそ、このままじゃ、野沢が……約束を守れなく。でも、どうやって藤松を止めれば





本当、情けないわね





六十部!


ゆっくりと歩きながら、こちらに近づいてきている。六十部はどこか暗い雰囲気だった。



サラッチ、サラッチだ! オーイ





あら、秋斗さんじゃない。良かった生きてたのね


ギャルぽい女の子と六十部はどうやら知り合いみたいだ。もしかして、六十部が探している友達ってあの子の事か。



あんたは誰だ? 久賀を知っているようだけど





私は六十部紗良、そしてアレの友達よ





アレって、でも、友達認定されてる





嬉しそうにしてる


秋斗は六十部に向って手を振り続けている。六十部は見向きもせず、藤松に話しかけた。



確か、あなたが藤松くんかしら?





俺が藤松だが、どうして俺の名前を知っているんだ





そんなの二人からあなたの特徴を聞いていたからよ





はあ





そんなことより、日泉さん。立てる?





はい、立てます


六十部は手を貸して、ひざまずいていた日泉を立たせた。



雪音さん。あなたも立てて?





うん、ちょっとだけ、ビックリしただけだよ


小斗はヒョイッと立ち上がった。



それなら、野沢さんを頼んだわ





うん、任せて


小斗は怯えている野沢を抱きかかえる。それを見た六十部は体育館を人差し指で指して指示を出した。



そのまま、野沢さんと日泉さんを連れて、体育館に逃げて





うん、あそこの体育館だね


野沢を抱きかかえながら、日泉と一緒に体育館に向って歩き出した。



六十部って言ったか、あんたも俺を邪魔するんだな





お互い様でしょう





そうかい


緊張した空気の中、鮫野木は六十部に話しかけた。



なぁ、六十部。どうして助けに来たんだ?





別に助けに来たんじゃ無いわ





私は私の目的を果たすために、余計なことをされたくないだけ





六十部?


俺には六十部の考えていることが、分からなくなっている。六十部はいつから、嘘を付いていて何処までが本当のことなのか分からない。



サラッチ、もしかして見つけたの?





秋斗、余計なことを言わないで





あ、ごめん


秋斗は慌てて、口を押さえる。
言われて都合の悪い事が六十部にある。ますます、六十部が分からなくなった。



なあ、六十部。お前の目的は何だ?





あなたに教えることは無いわ、ただ、野沢心に今は死んでもらうわけにはいかないだけ





今は? どういう意味だよ?





後に必要になるかもしれないから





だから、藤松くん。今はひいてくれないかしら





そんなこと出来るわけ無いだろ





ひいてくれる





フッジー、ここはサラッチの言うことを聞いて、サラッチは間違ってないからさ





何だよ……


藤松の手から金属バットが離れた。金属バットが落ちて鈍い音が響いた。



俺はただ、責任を果たしたいだけなんだよ





責任?





鮫野木と凪佐を廃墟に誘ったのは俺だ。俺が行こうなんて言わなければこんな事にならなかっただ





だから、俺が野沢心を倒さないと駄目だろう





お前……





藤松くん


思い込んだ言葉は(責任なんて無い)だった。けれどこの言葉は駄目だ。それを言うと藤松を傷つけるだけだ。何て言えば良い? どういう言葉を選べば良いんだ。



……お前に女の子を殺すなんて、出来るはずが無いだろうが





俺にも責任がある。だから……





鮫野木





一緒に元の世界に帰る方法を考えようぜ


自然に出た言葉が藤松を傷つけてないだろうか? それだかが不安だった。鮫野木は手を伸ばして、藤松の手を強く握った。
