同僚にそう言われ、世界を管理する『システム』のカレンダーを意識一つで確認する。

　いくらこの半島が温暖とはいえ、この時期に『桜』？

　尤理の疑問は、しかし、この半島の近くで生まれ育ったという同僚に案内された先で目にした光景に打ち消された。

　尤理の目の前に広がるのは『システム』のアーカイヴで見ることのできる『桜』よりも濃い色の、しかし確かに『桜』だと認識できる、柔らかな風に揺れる、花。

　二百年以上前の『大災害』は確かに、この世界を根本から変えた。だが、桜が咲く時期まで変えてしまったのだろうか。そう思ってしまうほどに美しく、そしてどことなく懐かしい、光景。

　町も人も無くなってしまった場所に、桜だけが残っている。崩れ果てた川岸に重なった、人々が行き来するかつての温泉街の光景に、尤理は小さく息を吐いた。