――DAY 2――
午後
町外れ
――DAY 2――
午後
町外れ



それは、どういう意味だ?





……アダムスキーさんがしたことを、少しだけ聞きました





……聞いちまったか


アダムスキーは無表情のまま、
少し横を向いて白い息を吐いた。
何故だかそれが、風雪よりも白く見えた。



はぁっ……





分からないんです……





何が?





僕は、何も詳しいことを知りません。だから……





はぁ





もしアダムスキーさんが酷いことをしてたなら、今も何か悪いことをするつもりでここにいるなら、最低だなってことしか思いません





ほう





すいません、言い過ぎました





いや。聞き慣れてるからな





はぁ





……慣れてる、のか





まあ、『あいつら』のことを
知ろうとするのは、
間違っちゃいない





だが……「俺の」目的、か。





何だろうな?





え……


小さく吐き出すような息の音は、
苦笑だったのかどうか分からなかった。



はぁ





俺の事は置いておいて、3年前の話をしないか?





3年前?





『神』を名乗る存在の正体を聞く覚悟はできたんだろ?





『かみさま』……の、ことですよね





そいつは人間ともただの獣とも違う





化け物、ってことですか……?
森だから、大熊の伝承とか





そう考えても良いさ。……まあ、俺たちは、『神話生物』と呼んでいるがな





神……話、生物?





はぁ





はぁ





なんで……殺しちゃったんですか?





はぁ





神話生物ってことは、神みたいなもので……でも、生きてたんですよね?





自分の信仰じゃなかったとしても……この町の人たちはそれを信じてたのに、それでうまくやってたのに、そんなこと……





はぁ





違ぇよ






なあ。もし、ここの『かみさま』とやらが生きていて、その生贄にお前の妹が選ばれていたら、どうする?





そうなんですか?!
だからみんな黙って……





落ち着けよ、小僧。今のは例えだ





それにお前は、『奴』が3年前に死んだ、そう聞いたんだろ?





っ……





ただ、もし『そう』だったら……お前はそれでも、妹を助けるだろう? ここの町人のことは二の次だ





それは…………


イリヤは答えを返せない。



そうだろうな





俺も答えは同じだった、ってことだ





Gnoph-Keh





……それが、この町にかつていた神話生物であり『かみさま』だ





のふ、けぇ……?





人間に発音できる範囲内ではな





はぁ





奴は吹雪を連れてくる





あぁ、冬にだけ現れる、って意味じゃない。文字通り、だ





吹雪……?! 文字通りってどういう、





おいおい、その口で言ったばかりだぜ。『神みたいなもの』だと





……





神に不可能はないんだろ?


風が、朔風が、肯定するかのように吹いた。



そして、ここサスリカでは昔から、生贄を捧げることで冬の厳しさを和らげてきた。
生贄の命を代償に、吹雪を減らさせてたのさ





あ……!



『ここがこんなに冷えるようになったのも、
それからさ』



もしかして、そういうことだった、とか……?





あの、さっき言ってたのって……アダムスキーさんは、大切な人が生贄にされそうになったんですか?





……





弱くは、なかったんですよね?





……さあな





はぁ





それより、なんで俺がこんな話をするか分かるか?





?





……俺は、嬢ちゃんが裏の事件に巻き込まれたと、そう見てるのさ





それって……





気 を つ け ろ


その声は、重しのように一音一音、
肩に臓腑に沈み込む。



相 手 が 誰 に し ろ 、
お 前 よ り 全 て に お い て 格 上 だ





はぁ





はあっ





っは、ぁ……





少なくとも、こんなところで凍えてるようじゃ駄目だな





あれ、僕……





起きられるか?





ん……だ、れ……





ここは?!





森小屋とでも言えば分かるか?





アダムスキーさん?





悪かったな、お前がサスリカの寒さにここまで弱いとは知らなかった





……僕、ずっと外にいたから、寒さで倒れたんだ……





宿までお前を負って帰るほどの自信はなかったからな、ここを借りた





ありがとうございます





まあ、苦労したのはお前を運ぶことより、ベッドから落ちそうになるたびに戻してやることだな





へっ? すいません





それはさておき、今日のところはすぐに帰れよ。10時に空きっ腹で帰ることになるぜ





……アダムスキーさんは、このまま帰らないんですか?
どこに行くんですか?





秘密


旧式の薪ストーブ。
雪かきなどの道具。
窓の近くには、座りながら外を確認できそうな
小さな机と椅子
窓の外には、樹海の入口。



ここって、ファーヤさんが言ってた小屋だよね?





本当に、使って大丈夫なんだ





ただここにいるだけでいいのかは分からないけど、とにかく明日、早くここに来よう……


