――DAY 1――
昼
飯屋『ミラ』
――DAY 1――
昼
飯屋『ミラ』



あんた、アダムスキーを知ってるのかい


氷でできたような視線。
先ほどとは打って変わって
心を閉ざしてしまった様子の主人に、
イリヤは少なからず動揺した。



ええと、昨日の夜ホテルで会って少し話して……





そうかい。
連れじゃないなら、まあいいさ


さきほど駆け込んできた男も
会話に混ざってくる。



こんな冷たさ、知らない


気温の問題ではない。
イリヤの住むのはここよりも少しは温かいところ。
都会というにも中途半端、
田舎といってもここほど小さな、
閉鎖的な町ではない。
その温度が一番暖かいのだと
イリヤは知らなかった。



ロッタ、何故あの男を泊めた?





……





ラートカ、やめな





チッ


ラートカと呼ばれた男(名:アイラト)は、
詰め寄っていたシャルロッタから
目を逸らして舌打ちをした。



……この天気で、野宿でもしたら死んじまうだろ





あんな男、いっそ遭難しちまえばよかったんだ





ラートカ!





ロッタにそんなことさせられないだろ





……分かってるよ





俺だって撃ち殺してやりたいのを我慢してるんだ





あの、アダムスキーさんって、何をしたんですか……?








……あたしたちはもう、面倒事はうんざりなんだよ


シャルロッタは深く息をついた。



『かみさま』……
あたしたちをずっと見守ってくだすった『かみさま』はもう、いなくなっちまった





なんでか、分かるかい?





うっ……





ミラ……


言葉を詰まらせたザーミラに代わって、
アイラトが続けた。



あの男だよ。
いつも薄気味悪く笑いやがって、あの忌々しい男……アダムスキー!!





あの男が、『かみさま』を追い出しちまったんだ。
そしてもう、帰ってこない





ここがこんなに冷えるようになったのも、それからさ


消え入りそうな声で、シャルロッタが続ける。



もうあたしらを守ってくださる『かみさま』はいない。あたしらは静かに生きてくしかないんだよ





だから、ほっといておくれ


ザミーラが、小さく声をつないだ。



あんたの妹も、何のために来たか知らないが騒々しかった。いなくなってくれて清々してるんだ





!





俺は確かに獣じゃない、おぞましい足跡だって見たんだ





『かみさま』がいないんだ。
きっと悪い何かが、皆をさらってしまったんだ……もう俺たちには、何もできないのさ





…………






何……だったんだ?


吹雪が一瞬で服を白く染め上げる。



アダムスキーさんって、一体……?


ひときわ強い風によろめいて、
混乱していた脳が一時、現実に引き戻された。



……とにかく、どこか別の、話を聞けそうな屋内に……





あ



遠くで男が一人、建物の中に入ってゆく。
つられるようにして、イリヤは足を踏み出した。



どこ行く気だ? 少年


その背を、誰かが掴んだ。



!





おっと、向こうの男には
近づかない方が良いぜ


誰だろう?
イリヤは振り返りながら、尋ねる。



何故ですか?





あいつは
『スポーツマン』だからさ


たっぷりと雪をはらんだ朔風(さくふう)が
視界を切り、話しかけてきた男の顔を遮る。



え?





少年は知らなくていいんだよ





……僕、16です





成人もしてねぇお子様が何言ってんだ?
ウォッカでタイムマシーンできるようになってから出直してきな


跳ねる長い金髪に、どこか余裕を含んだ目。
セミョーン・モルチャリンはウインクしてみせた。
Ж
「スポーツマン」……「ヤクザ」の隠語。
Ж
