――翌朝、食堂。
――翌朝、食堂。



いやぁー、今朝のメシも
美味いっすねぇ。
美味すぎるっす。





こりゃ美味ぇ!
五人前追加で貰うぜ!





ハグ、ゥム、
にく、うまい。
ハッ、ハグ、
う、う、めえ?





ダナンは身体が
デカいから別として、
ほんとよく食うよな。


厚切りベーコンのルードヴェルディ。
ディープスの庶民にもよく食べられるメニュー。ヴェルディ地方のルードという特別な調理法で、厚く切ったベーコンを弱火でじっくり焼いたものだ。



私ももう一枚頂きます。


おかわりをしたアデルだが、もうこのメンバーで驚く者はいない。身体の小さなアデルだが、その小ささと反比例したような食いっぷりには、同期達からすれば日常の風景のようだ。



しっかし、ジュピターが
そんなに強かったのか。
なんだか信じられねぇな。





へっへっへぇ。
そりゃあ、
オイラは小さい頃から
ジッチャンの剣筋を見て
育ってきたからなぁ。





そういえば有名な冒険者って
前に言ってたわね。





それにしても凄いわよ。
私なんか横で見てたけど
どうなってるか
分からなかったもん。





ハルが弱すぎる
だけじゃねぇのか?
ぎゃっはっはっは。





いやぁ、
確かに自分が弱いってのも
あるっすけど、
ジュピターの剣筋が
凄いってのはホントっす。





確かにハルの言う通りだ。
俺もずっと見てたからな。





へぇ~。





ハルも負けてられませんね。


訓練場に入って三日目。
昨日と同じく、各々が自分自身にあった訓練を行う事になった。
ハルは昨日の教官の元に、再び顔を出した。



おっはよーごっざいますっす。
今日も訓練お願いするっすよ。





昨日何セットまでしたんだ?


テンションの高いハルの挨拶を完全に無視して、刀の教官は質問を投げかけてきた。



そりゃあ言われたとおり
5セットやったっすよ。





何? 何だと?





……まぁいい。
それなら今日は10セット。





げ!
又、基礎体力っすか?
剣術を教えて欲しいっすよ。


文句を言ったハルは、この後、教官の怒りを買い、昨日の三倍の基礎体力コース15セットをやる羽目になった。
――東棟、会議室前廊下。
訓練を終えヘロヘロになったハルは、寮室に戻ろうとしていた。昨日の三倍のメニューを夕方までの間にこなす事が出来たのだ。



答えてちょうだい!


強い語気が聞こえてきたのは、会議室からだった。好奇心旺盛なハルは、疲れも忘れ隙間から覗き込んだ。



…………。





今話すべきことではありません。


中にはユフィとリーベが、二人で真剣な話をしていたようだ。答えを求めているのはユフィだった。



さっきも言ったとおり
私には病で苦しむ妹が居るの。
不思議な力について
存在だけでも教えて欲しいの。


ユフィの目的である妹の病の克服。エノクがシーベルトに滞在している時、ハルに語った話だ。ユフィはおそらく、その不思議な力の正体をリーベに聞いているのだろう。



聖ユデア教会の導師が使用する
指輪の存在をご存知でしょうか。





詳しくはないけど、
聖ユデアが残した奇跡の力を
使えるらしいわね。





その通りです。
貴重な品なので、
一般人が見る機会はないに
等しいでしょう。


リーベはフードの襟元を微調整して、後方の椅子に音もなく座り、続けた。



指輪の力は傷を癒す……、





……治癒…………、
それならネピアも!





そう噂される事が多いですが
正確ではありません。
戦いで傷付いた身体の回復。
そう認識されている
冒険者が多いのも現状です。
ですが事実は違います。





生命力を上げる……
それが指輪の力なのです。
指輪の力で傷が
癒えるわけではないのです。





同じことだわ!
ネピアの病気にも
きっと効くはず!


妹のネピアの事になると、どうしても冷静さを欠いてしまう。そんなユフィを見据え、僅かな間を開けてリーベは答えた。



病気とは生命活動の一種。
生きている人間しか
病気にならぬものです。





何を当たり前のことを!





指輪の力は生命力を
上げると申しました。
傷や病を治そうとすると
回復力も上がりますが、
生命活動の一種である
病気の力も
上がってしまうのです。





元々、病気の力が強い状態で
生命力を上げると
病状は悪化する最悪の結末。





逆効果なの……
何で、そんな話を……





いずれ指輪の話は
ベルゼビュートさん、
貴女の耳に入る。
先にお話しておくべきだと
判断致しました。





結論を聞かせて。
妹の、ネピアの病気を
治す手段はないの?


ハルは会議室を覗きながら緊張していた。この返答によっては、ユフィがここに居る理由がなくなる。ハルにでもそれはすぐに分かる事だった。



単刀直入に申し上げます。





現在病を克服する力は
御座いません。


非情とも言えるリーベの返答。その答えでユフィがディープスを出る事もリーベは分かっているはずだ。



分かったわ。
時間を取らせたわね。


はっきり言い切られたユフィは、いつもの冷静さを取り戻していた。
妹の病を治す方法を求めてベインスニクを飛び出した。今、その可能性を完全に否定されたのだ。



ユフィがベインスニクに
帰るのは寂しいっす。


ハルには仲間との別れが辛すぎた。それを止める事も出来ないし、ユフィ達姉妹の為にもならない。自分ではどうする事も出来ない他者の事情に、歯痒い思いを抱えるハルがいた。
