先輩に机を持たせて教室に帰ると、ただそれだけで注目を集めた。
悠美が一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに戻って、ついでに微笑まれた。
なんの微笑みかわからなくて蓮さんを振り向くと、蓮さんは蓮さんで苦笑していた。
まぁ、過干渉と思われなくもないか。
先輩に机を持たせて教室に帰ると、ただそれだけで注目を集めた。
悠美が一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐに戻って、ついでに微笑まれた。
なんの微笑みかわからなくて蓮さんを振り向くと、蓮さんは蓮さんで苦笑していた。
まぁ、過干渉と思われなくもないか。



蓮さん?!





よ、この間ぶりー


驚愕とともに千裕が声を出すと、律儀に返事をする蓮さん。
呆気にとられていたみんなだが、ふと、蓮さんがあたしの椅子を持っていることに気がついた瞬間、正気に戻る。



絢香、なに連さんに持たせてんだよ





まぁまぁ、女の子。
俺が勝手に持ってきたんだから、そう怒るなよ


蓮さんがやさしく止めると、何にも言えなくなる翠ちゃん。うふふ、先輩って肩書つよぉい。
じぃっとこちらを観察していた碧ちゃんが口を開く。



ふーん、絢香ちゃんはぁ、蓮さんともぉ、関係あったんだぁ?


突然何を言われているのかわからなくて、首をかしげる。
何を言われているのか思い至った時には既に紫穂、翠が乗っかり始めていた。



え?てことは、蓮さんも浮気相手の一人ってこと?





うわ、何それ、本気で引くんですけど


あんたたちの妄想に、あたしも引くんですけど。
口を挟む隙間もない2人の妄想は勝手に進んでいく。
それに、バラバラになっていたグループの子たちも書くグループで似たり寄ったりな話を初めて、本人そっちのけで楽しい楽しいめくるめく妄想ワールド展開中だ。最近の高校生は体験談なしでも噂を作れるのか。
仕方なく完全に観察モードの蓮さんに囁く。



うちの学年、すごいでしょ、連さん





誤解とかねぇーのか?


同じくらい声を落として不思議そうに聞く。



こうなったらもうあたしじゃ解けないんですよ





大変だなぁ、いじめられっ子も


今まで持っていた椅子を置き言いながら腰を下ろす蓮さん。
どうやら観察するらしい。
この人実は暇なんじゃないだろうか。
机をいつもの場所に戻した匠が千裕たちを連れて戻ってくる。
牧は既に蓮さんにあったことがあるようで、軽く会釈して近づいてくる。
拓也も手早く挨拶を終えると、みんなでクラスメイトを観察し始めた。



いつもより、みんなノリノリね





テスト結果、絢香ちゃんよかったから悔しい思いした子もいるんじゃない?





へぇ、絢香総合1位?





2位です





じゃあ、千裕が3位か





俺は、絢香に勝てない設定なんですか、あなたの中で





……絢香に勝てんの?





……勝てないです


じゃれてる二人を見ていたら急に蓮さんがいいことを思いついたようにあたしを手招きした。



ちょっと、絢香ちゃん、誤解解いてみなさい。
ダメもとで


背中を押す蓮さん。
無駄だと思うけど、後ろを見れば蓮さんがあまりにも期待した視線を送ってくる。
ため息をついて、一歩だけクラスメイトに歩み寄った。



ちょっと、聞いて!私が今まで、そう言う関係を築こうとしたのは児玉くんだけで、ほかの人とかありえないから


一瞬静かになるクラス。しかしそれもつかの間、碧がニタニタ笑いながら言う。



あー、またぁ、勘違いネタぁ?


笑いながら言うから、笑いながら言い返す。
そもそもその話だって誰かの作り話だってーの。



少しは私の話聞いてよ。
いつそんな関係になれる時間があったのよ


中学から札付きの悪だった蓮さんに学区も違い、高位だったあたしが近づくわけ無いでしょ。いや、近づいたけれども。みんな想像しないでしょ。うん。嘘はついてない。言ってないだけだし、本当に彼とは何もないもの。
あたしの言葉にクラスのみんなは矛盾を感じたようで静かになる。もともと、クラスメイトはそこまであたしに悪意なんてなくて、悠美たちに乗っかていた人もいるんだし、これは、いけるかもしれない。よし、もう一息。そう思って息を吸った瞬間だった。



だって、絢香ちゃん、昔、不良だったんでしょ?


人生そう甘くはなかった。



ホント!?悠美


悠美の発言にいち早く反応する翠。つくづく黒歴史なんて持つものじゃない。
慌てて言い訳をする。



た、確かにやってたけど、どちらかというと私は暴力専門だからって、あれ?ネガティブキャンペーン?


なんか変なこと口ばしった。
後ろで見守ってたみんなが吹き出す。
吹き出してる場合じゃない。助けてくれ。
そんな願いを込めながら後ろを振り向こうとすると、クラスがまたざわつき始める。今度は何よ。



やっぱあいつおかしいよ





マジ、なんであんな奴生きてんの?


悪口大会の再開である。仕方ないか。
ため息をつきながら後ろを向き直る。
ニヤニヤした蓮さんがこっちを見ている。
完全に楽しんでいることが伺えて少しイラッとくる。
しかし、ここにいて蓮さんの評判を下げるのも嫌だ。



蓮さん、今のうちに教室戻ってください





なんで?


長居決め込むつもりだったのか不思議そうな顔の蓮さん。



きっと、あっちの悪口大会終わってこっち見たとき蓮さんがいなかったら、みんな連さんのネタ忘れます


言い切る私。ますますきょとんとする連さん。千裕たちの方を見ると頷いている。
何かに気がついた蓮さんは静かに言う。



……お前の学年バカだな





……そう言わないでくださいよ


憐れむような目で見られても。否定できない。実際そうなると思うから。



……じゃ、悪いけどもどるわ。
また何かあったら話せよ。
次は毒牙に掛からないようにする





頼りにしてます


蓮さんはそっと後ろのドアから教室を出ていった。
このあと、本当に蓮さんがいたこと忘れてしまっているクラスメイトにため息が出た。
何のために悪口大会に発展したのかも覚えられないのによくこの学校に入っれたね、なんて思わなかったわけじゃない。
