秋帆は別方向なので、由宇とふたりで帰路を歩く。



すっかり日が暮れちゃったねぇ





うん、夏も終わって、だんだん暗くなるのが早くなってきてるね


秋帆は別方向なので、由宇とふたりで帰路を歩く。
静かな夜に、私たちがぽつりぽつりと会話をする声と、足音だけが響いている。



ところで





?





まだ、隠してることあるよね?





えっ、隠してること?


……驚いてしまった。焦りは伝わるものだ。由宇は、自信ありげに続けた。



時間屋についてのことというか、正蔵さんにまつわるなにか、とか





なにも、ないよ


まだ秘密にしておくと決めたのだ。ここは、誤魔化し通すしかない。



どうしても、言えないの……?


……まだ考えのまとまっていない、あやふやな記憶について誰かに話すという経験がないから、どうすればわからない。
きっと悩んでいることも筒抜けなのだろう。このままでは埒が明かないことも確かだ。
ゆらゆらしないと決めたばかりなのに。迷ってばかりな自分に嫌気がさす。……でも、そう、そういう自分を変える機会、なんて、綺麗事かもしれないけれど、そう考えると、覚悟も決まるというものだ。



……曖昧で、すこしも確証のないものだけど、いいの?





いいよ、舞花の話しやすいように話して





うん、ありがとう


記憶を掘り起こす。話すために自分の記憶をたどっていくと、すこしずつ映像がはっきりし始める--------



舞花





おじいちゃん、久しぶりだね


--------あれ?



えっ、なんで、あれ!?





舞花?なに、どうしたの!?





おかしいの、おじいちゃんは、私が物心つく前に亡くなったはずなのに、おじいちゃんと話した映像がはっきり流れてきたの。なんで?私の記憶違いなの?





落ち着いて、舞花っ


いつの間にか立ち止まっていた私たち。肩を優しく包む由宇の手のぬくもりが伝わってくる。
深呼吸。落ち着いて、夜の澄んだ空気を吸い込む。



俺にはわからないけど、いくらでも待つから。焦らないで、ごめん、俺も急かしすぎたね





ううん、由宇の所為じゃないよ、ごめん、ちょっと、でも、時間、欲しい





うん、大丈夫だよ、安心して、もう急かしたりしないから


由宇の優しい声音は、私の心に沁み渡るようだった。



……というか、今までの言葉、恋人みたいだね、なんか恥ずかしくなってきた





そっ、そんなことは、ないんじゃないかな!?





そっ、そうだね、だよね、うん、変なこと言っちゃった……


空気がなんだかおかしな方向へ変わったタイミングで、由宇の家が見えてきた。



あ、じゃ、俺は、此処で





今日はほんとうに、ありがとう





あんまり自分を追い詰めないでね。とにかくまずは、花楓さんが目を覚ますのを祈ろう。溜め込んじゃ駄目だよ、なにかあったらすぐ相談して。神原も居るんだし





うんっ、それじゃあ、また明日





バイバイ


由宇を見送り、私も歩き出す。
けれどふと、立ち止まり、私は考えずにはいられなかった。



……あの記憶は、なんなんだろう


自分の中に、得体のしれない記憶があるというのは恐ろしいことだ。
でも受け入れなければいけない。
でも『時間屋』のこと、おじいちゃんおばあちゃんのことを知るために--------自分を知るためにも、乗り越えなければいけない壁なのだから。
第八話へ、続く。
