時田は息をついて目頭を押さえた。



……ようやく、50キロ圏内か


時田は息をついて目頭を押さえた。



逃走経路は、うん……妥当だな……





時田さん


数奇が、傍らに立っていた。
話しかけられたことよりも、こんな近くにいたのに気づかなかったことに時田は驚く。



び、びっくりしたな……何だ?





お話があります


数奇の後ろから、夜暮が顔を出した。



時田さーん、なんで数奇さんが
あのキャブを見つけたとき、
『変わったバイク』
って言えたんですか?





これは変わったバイクだな





何のことだ?





時田さん、あのバイクは国内最大手メーカーのありふれたキャブ、改造もなく、ナンバーも分からない状態でした





車体が薄ピンク色だったからだ、当然だろう。
現に特定にも役立った


時田の言葉に夜暮は頷いた。
そこには特におかしいところは感じない。



でも、なんで
「比較対象のない」
「夜中の」トンネルの中、
「オレンジの蛍光灯に照らされている」バイクの色がすぐ分かったんですか?





え?





それは……そういう写真の解析には慣れてるからな。きっとなんとなく不思議な色だと思ったんだろう、そのとき





独り言の意味なんていちいち
覚えてねえよ





最初は、鑑識の方ともなればその程度の色の変化は頭に入っていてすぐにわかるものなのかとも思いました。
もしくは、ピンク色の車などを見慣れていてすぐ分かったか


数奇は、深く息を吸い込んでゆっくりと話し出した。



そこで僕はちょっと貴方を試させていただきました





は?





捜査中、同様の条件下、つまり夜間にトンネル内に置いたいくつかの異なる色のキャブの写真を手に入れて、貴方に見ていただきました。
夜暮さんや他の皆さんにも協力していただきました





トンネル内のバイクが多かったのはそのせいです。お手数おかけしました





このタイミングでそれ謝ります?





他の色の違う自転車を見ても、貴方は解析にかける前は一回も気づかなかった。
途中でも『普通の道なら見ただけで色は分かる』けれどもトンネル内はそうではない、という意味のことを言ったのを、全員が聞いています。
つまり、貴方には別の色のフィルターがかかっているときバイクの色を比較物なく瞬時に見分ける能力はない





あのタイミングで薄ピンクだと……『変わった』バイクだと気づくのはおかしいんです


