


お父さん、久しぶり





ああ、仕事には慣れたか?





なんとか、ね。上下関係がだいぶ酷いけど、一番志望していた会社に入れたんだもん。文句は言わない





社内関係は重視するべきだと思うぞ。今のご時世生真面目な人間が苦労するんだから





お父さんには、私が生真面目に見えるんだ?





万引きで補導されたと聞いた時は、何を間違えたのかと死ぬほど悩んだな





その節は本当にごめんなさい。あれを機に私の反抗期も終わったんだしさ





あのなあ





で、久しぶりに家に帰ってきて散歩に誘った理由なのですがっ





私、結婚しようと思うんだ





…………





いきなりすぎて……すごく戸惑ってる





あはは、そりゃそうだよね





職場で出会った人なんだけど、誠実な人なの。趣味も近くて、本気で私を想ってくれてる。この人となら、結婚してもいいかなって





……そう、か





あれ?娘は渡さんって怒らないの?





なんでそうなるんだよ





そりゃ寂しいさ、とっても。けど、こういう時は笑顔で見送ってあげたいなって、ずっと考えてた





『 』は母さんの娘だ。父さんはお前を信じるよ





……うん、ありがとう





来月末になったらまた帰ってくるよ。今度は彼もつれて。顔合わせも兼ねて一緒に食事しよう?





うっ…………





ここは……牢屋?





どうして?という顔をしているな





アンタは……





僕は姫様の周囲を警護している者だ。姫様は立場上寄ってくる者も多いからな、不用意な輩を締め上げる役目を負っている





貴様は卑しくも姫様の部屋まで一直線に走っていた。相応の理由があるのだろうな?





…………俺は





姫に、会わなきゃいけないんだ





…………は?何をバカなことを





どうしても渡さなきゃいけないものがある。それを、俺自身が―――





……ならば僕が直に渡しておこう。貴様の名前を添えて、な。身の程知らずにも姫様の部屋に特攻をかけるような輩の品ゆえ多少調べさせてもらうが





それじゃダメなんだ!俺が直接渡さないと!!





どうやら、全部思い出したみたいデスね





……えっ?





どーも、つくづく縁がありますね





なんで牢の中に入ってるんですか……俺も人のこと言えないけど





おばあさんには会えましたが、アナタが戻ってこないもので。おばあさんから事情聞きましたしここなら会えると思いましてね





それで、話を戻しますが、何故貴様がそれを直に姫様に渡さなければならないのか、説明を願いたい





おにいさん、見せるしかないんじゃないデスか?





……ああ





……ふざけているのか?これの中身は明らかに





ああ、指輪だ





認めるはずがないだろう!!今すぐに没収だ!!





軍のおにいさん、その指輪をよく見てみてください





……は?





DEAR.『 』…………





頼む!罰なら後でいくらでも受けるから、一度だけで構わないから姫様のところに………!





……失礼ながら、貴様の名前は?





『 』だ!いい加減ここから―――





…………





……えっ?





出ろ





姫様は今頃射的から戻って庭を散策している頃だろう。牢から出たら見つからないように右へ走れ





えっと…………





僕は不注意で鍵をかけ忘れただけだ。そして今のも以前捕まえた輩の証言をそら読んだだけだ。ボーっとしてると牢の中に戻すぞ





…………ああ、ありがとう





おにいさん、これを!





……っと。これは?





きっと使えると思います。お持ちください





Good Luck!





…………ありがとう!





…………





いいんデスか?本当は追いかけたいのでしょう?





彼が何を渡すのかは、なんとなく察しがつきました。そんな文化、どこで聞いたのかは知りませんけど





僕は彼女が幸せになれればそれでいい…………そう思っています。この姿になって日は浅いですが





たとえ身分が違っても、僕は彼女を愛し続けたい





アナタにとっては、大変な受難となりましょうが……身分的に不可能ではないのでは?





どうでしょうか……いち軍人と姫の禁じられた恋、なんかシェイクスピアみたいじゃないですか?





……お気持ちは変わることないようデスね





ええ、永遠に


