6話:車輪を回せ 運命すらも巻き込んで
町を自転車で、飛ばす飛ばす。誰にも追いつけないくらい。俺は雪華ちゃんの背にしがみつき、歯を食いしばる。



お姉ちゃんね、……ううん、わたしね、君に謝らないといけないんだ。





うぐぐ、しがみついてるのも結構キツイなこれ……えっ! なんだって!?





わたしは、君にわがままを押し付けてる。 陽太が意識不明の重体だった時間に……目覚めてくれるなら、何でもする、なんだっていいって……願っちゃった。





……!?





そしたら……こんな奇跡が、起きるなんて。





試すマネしちゃって、ごめんね。どう違うのか、知りたかったんだ。





まさか、お姉ちゃん、気づいて……?





それ以上言わないで!





それ以上言ったら……ごまかしが効かなくなる。魔法が、解けちゃう。





(一昨日のことだわ……)


打ちひしがれていたわたしの目の前に、悪魔が現れた。



死んだ子を復活させる? そんなの簡単だよ。誰かの魂を「転生」させればいい。





転生……





2日間、お姉さんがその子を陽太くんとして扱えば、魂と肉体は同化して、ほとんどもとの陽太くんに戻るはずだよ。





ただし、誰かに陽太くんの中身に気づかれたら失敗だけど。そしたら、死んじゃうから。でも、簡単でしょ?


何も残っていないわたしには、その悪魔の提案はすごく魅力的で。まるで天使の祝福のように思えたのだ。



でも、こんなの間違ってる。





わたしの心の弱さがこんな苦しみを招いた――もう、君はどっちにしたって辛い未来しか無い……窮地に追い込まれてしまった。





許されることじゃないけど、ごめんなさい……





…………


そこまで、君は陽太のことを大切に思ってたんだな。陽太、聞いているか。恵まれてたんだぞ、お前は。
……届きはしない、この声。こんなにも近くにいるのに、俺とお前は、相容れない存在だよな。
俺の記憶。
記憶を失ってしまったら、この今感じている熱も、ぬくもりも風の心地よさも……全部消えてしまうのか。
違う……



お姉ちゃん。





雪華お姉ちゃん♪





お姉ちゃんってば……!





お姉、ちゃん……


たとえ魂を失ったとしても、この体は、覚えていただろうが……!
俺は、そして陽太は、この体で生きているんだぞ。そう簡単に記憶だけ、すっぽり消えてたまるか……!



…………





……お姉ちゃん。僕のことは心配しないで。僕は、陽太だから。これまでも、これからも。





……!


覚悟は、決めた。怖くて、声は震えてたけど。だからあとは。残された時間で、俺は……!



お願い、僕を連れてって!





うん! もう少しだけ我慢してて。もうすぐだから!


街道を走り、角を曲がり郵便局を過ぎて。緩やかな傾斜の坂を必死に登って……!
続く……
