先輩

……

やはり趣味の悪い魔法空間はアナタによるものでしたか。ノア……

苦情なら依頼主に言ってくれよ。ボクは言われた通りに造ったわけだし

依頼主？

知っているだろ？動物愛好家のベン・カサブランカ。

はい

不幸な魔物や動物たちを救いたいから協力して欲しい……って頼まれた

人外の者が多いとは思っていましたが……そういうことでしたか

ここは人外の者たちの最後の楽園……依頼主の目的はそれだった。夢の人外王国でも作りたかったんだろうね

強制的に落として楽園だと言うのですか

そうでもしなければ、人外は人間の言葉に耳を傾けないだろ？　

……ボクは魔法空間を維持することに集中するだけ。誰を連れて来るかは依頼主が決めていた。

それにボクは異を唱えることができないよ。
無理矢理連れて来られる子たちだっているような気がした……だから……もしもの為の保険は必要だな～って思って……先輩を落としたんだ

………

彼は異常だよね。

勇者を恨む魔物たちを保護する……そんな理由で地下に落とした。
生きることに絶望していた勇者も放り込んだ。魔物が勇者を殺すことを知っていてね。

自分も人間なのに、人間が殺される舞台を作ったんだ

……あれは、惨かったですね

勇者の仲間だった魔法使いから、あの勇者のことは聞いていた。才能がないのに期待されて、最後には金の為に売られて、頭の中を壊されて、勇者に仕立て上げられた哀れな男。

………

彼の結末を彼の仲間や家族に伝えることは禁句となっている。
だからこの罪をボクは背負って生きていかなければならない。

………

アーク、お前はボクたちに黙っていることあるだろ？

………

罪を吐かないと、この扉は開かないんだ

………趣味が悪いですね

趣味は悪い。
だけどアークは人が悪い。
ミランダにだけ告げてボクに言わないのは不公平だ。彼女の墓前に告げていただろ？　アークが犯した罪をね。

……聞いていたのですか。ならば……

アークの口から知りたい……

ボクは偶然聞いてしまった。だから知っている。これは、偶然聞かなければ知ることが出来なかったことだよね。

　そうだ。ノアにだけ伝えないのは良くない。

知っているよね？　ボクって仲間はずれされることが嫌いだって……

………仕方のない子ですね……

………師匠を殺したのは、私です

……っ

あの時計は師匠の心臓と繋がっている。生きている限り時を刻むのだと師匠が教えてくれました。二人がいないときに頼まれたのです。時計を止めてくれと

ど………どうして、従ったんだ

私たち三人なら師匠を魔法で生かすことが出来ます。それは禁じられた魔法です。一度魔法で生かされた命は、私たちの手でしか止めることは出来ません。そんなの実験動物みたいじゃないですか

…………確かに、ボクたちなら簡単だったね

黙っていたことは、悪いと思っています

師匠から、黙っていろって言われていたんだろ

はい

………約束破ったな

はい、私のプライドに傷がつきました

へ？

ノアが依頼主に逆らえないのは理解しております。
ですが、私は先輩なのですよ。
そんなバカみたいなルールなんて無視して、一人ぐらい黙って通しても良いのではないでしょうか？

罪を吐かなければ扉が開かない？　知っていたことなのに白々しい。仲間はずれが嫌いだなんてガキですか？　

い、いや

デュークを連れて来たのも気に入らないです。事前に阻止出来たでしょう？　あの子がミランダのお気に入りだと知っていて見過ごしたのですか

……デュークのときは、あの男が直接だったし、あのメイドもいたし阻止なんて……

ラシェルを落としたのは？

それも手違いだよ。まさか、デュークの前にラシェルが来るとは思わなくてさ。
ラシェルが、ベンやメイドに見つかると危ないから仕方なく………

仕方なく、放り込んだのですね

だ、だから、先にアークを落としただろ。アークがいれば………どうにか……

先輩である私を利用するとは、ずいぶん偉くなりましたね

あちゃー………