少女はそう叫ぶと、立ちはだかる大人達をポカポカと叩いた。
だが、そこはあくまでも少女の抵抗。全く以って攻撃とはならなかった。
それが悔しくて。少女は泣きながらその場から走り去っていった。



いやだ!!


少女はそう叫ぶと、立ちはだかる大人達をポカポカと叩いた。
だが、そこはあくまでも少女の抵抗。全く以って攻撃とはならなかった。
それが悔しくて。少女は泣きながらその場から走り去っていった。



どうして……どうしてこの町を変えようとしちゃうの?


一方、青年型アンドロイドType-Aは、この町――エリー町の都市開発計画の発案者として、少女の対応に戸惑いを感じていた。



どうしてあの子は、あんなに恐れているのだろう……





私は分かる気がするわ。だって、此処は彼女の故郷だもの、その故郷が変わってしまうのは、やっぱり怖いことなのよ





そうだろうか? 変わることの良さだってあるはずなのに





だったら、アンタが教えてあげなさいな。その変わることの良さってヤツを、ね





……


所変わってとある老夫婦の家。病により布団に伏せるおばあさんは、おじいさんに手を握られ、外の景色を見つめていた。



のどかじゃな、ばあさん





ええ、そうね





この景色が、何時までも続くと良いんじゃけどな





……そうかね、私は、新しい世界も見てみたいと思うけどねぇ





おや、本当かい?





ええ、私はずっとこの場所でおじいさんと過ごして来ましたから。ちょっとは違う世界も見てみたかったと思ってね。わがままかね?





……いいや、そんなことは無いさ





ごほっ、ごほっ! でも、この体じゃ……ね。何時まで持つか分かったもんじゃない





……すまんの。わしにはお前さんにやるディの実を買う金も、取りに行く体力も無い……


当てもなく走り回っていた少女の下に、入って来たとある老夫婦の会話。これを聞いた少女は、いたたまれない気持ちになった。



……おばあちゃん、調子悪いの?





おや、可愛いお客さんだねぇ。変な会話聞かせちゃってごめんなさいね





ううん





おばあちゃん! 私、おばあちゃんの為に取って来るよ、ディの実!!





冗談よしなさい、ディの実は、崖にしか咲かない。お嬢ちゃん一人じゃ取れやせんよ





待っててね! 今すぐとって来るから!!





おやまぁ……





まぁ、諦めてすぐ帰って来るじゃろう。その時は励ましてやろうな





確か此処に、生ってるはず……!


ボートをレンタルし、ディの実が生る渓谷へとやってきた少女。道具の準備もばっちりだ。



よいしょ……


少女は少しずつ、着実に崖を登っていく。……が。



うわぁ!


足を踏み外し、水面へと落ちてしまった。



下が水で良かった……


少女は泳いで崖の手前までくると、再度道具を使い、崖を登っていった。
時も経過し、少女の目の前にはとうとうディの実が! しかし、少女が手を伸ばしたその瞬間のことだった。



よっしゃあ!!





あー!!


少女より数秒早く、見知らぬ少年がディの実を崖の上から掴み、持って行ってしまったのだ。



ま、待てー!!


少女はなんとか崖の上まで登り切ると、少年を追いかけた。



あ、君





さっき、男の子が此処走って来ませんでしたか?





え、えっと。あっちに





有難う!





あ、ちょっと……


Type-Aが話しかける隙も無く、少女は少年を追いかけてしまった。彼女の後姿をこのまま見送るわけにもいかまい。彼もまた、少女を追いかけた。



見つけたぞ!





うわ、もう来やがった! 崖登ってたのにバケモンかよっ!!





さぁ、その実を返して貰おうか……





……絶対に渡すもんか。コレがあれば、俺達の生活が潤うんだから





あのねぇ、こっちはおばあちゃんの命がかかってるんだから!!





お、おばあちゃんの命!? ……でも、俺達だって必死なんだよ





と言うと?


少年の家は彼の生まれる前から貧しく、体の弱い母を守るように、少年と妹が働いているのだそう。



……そっか





こっちも必死に探して、やっと見つけた実なんだ。お前みたいにちゃんと崖だって登って来たんだぞ





……分かった! それは君にあげるよ!!





……お前……





有難う、恩に着るぜ!!





さて、今度はどうするかなぁ





ディ~ディの実が今なら安いよ~





うっそ、マジ!? それ下さい!!





よし、それじゃあ1000マニーな





たっか! でも払えなくは無いか……ほいっ





まいどー


商人から買ったディの実を手に、少女はスキップをしながらおじいさんとおばあさんの下へ戻った。
しかし、おじいさんとおばあさんの反応はあまりにもあっけない。



……おや、これはニセモノだね





ええっ!?





ええ、そうだね。でも折角取って来てくれたんだ。雑炊の具に入れて頂戴





……





待ってて! 絶対今度は本物持ってくるから!!





おい、これ……


またしても、少女は二人の言葉を聞かずに去って行ってしまった。



駄目だ、見つからない……


少女はしゃがみこみ、その場でなきじゃくった。そんな彼女の視界に、一つの手が伸びてくる。



君が欲しいのはコレ?





ど、どうしてソレを……!





そりゃあ分かるさ、ずっと君を追いかけていたんだから。この実、おばあさんにプレゼントしてやって





う、うん! 有難う!!





その代わりと言ってはなんだが、渡した帰りで良いから、ちょっとついてきてくれないか?





……? うん





何と……!





まぁ……!


少女の手にある本物のディの実に、二人はたまげたが、これをおばあさんに手渡すと、おばあさんはこれが現実であることを実感した。



有難う、有難うね……





本当に、感謝してもしきれんよ





良いの、私は貰っただけだしね! それじゃあ、用事あるから行くね!!





ちょっと待っ……って言ってももう遅いね。本当に、本当に有難う





ついてきてくれ





うん


二人が歩いていくと、やがて夕暮れだった空も暗くなっていった。
そして、二人が着いた場所。それは、先程の崖の上だったのだが、それより少女が驚いたことは、Type-Aが空を飛べると言うことだ。



すっごー! 空飛んだ





それより凄いことが、これから起きるぞ。もう少しだけ待ってくれ





うんうん!





うわぁ~!!


一定の時が経過すると、少女達の目の前には、光る花々が咲いていた。



知らなかっただろ? この町の花が、光るだなんて





うん、どうして!?





実はこれ、私達が少しだけ細工したんだ





きれーだね!! ……でも





……変えられてしまうことは、やっぱり怖いのか?





うん。私は今のままでも良いと思うよ。どうして変えちゃうの?





……そうだな、強いて言うならば、私もこの場所を愛しているから、だろうか





そうなの?





ああ、本当だ。この懐かしくも、どこか見新しい景色はとても素敵だと思うし、住んでいる者達の人柄だって良い。君を見て、そう思ったよ





えへへ





だが、この村はこのままでは、いずれ人も減り、廃退していくだろう。それだけは、絶対にさせたくないんだ。同じ、この場所を愛する者としてね





でも、この場所が変わっちゃったら、今まで住んでた人達は……?





うん。だから、なるべくこの美しい景色を残して、且つ良い場所を作っていけたら。そう思っている。この世界を、生まれ変わらせたいんだ。……出来ないかな?





……出来ると思うよ、だって、こんな素敵なお花畑を作れちゃうんだもん! もっとこの町を、素敵に生まれ変わらせてね





……ああ!





きれー……





綺麗じゃのう、ばあさん





ええ、綺麗だね





本当に綺麗だね





ええ!


そして、長くて美しい夜は、刻々と終幕を遂げていった。
…一か月後…



ギャー!! 遅刻だー!!!


あの美しい花畑を見てから、もう二か月が経つ。今日は、町の一大イベントとも言える、エリー都市の誕生記念日だと言うのに、よりによって寝坊してしまった。
パンを加え、寝癖を付けたままで、家を飛び出す。
その瞬間――。少女は思わず加えていたパンを落としてしまった。



わぁ~!!!


