おばあちゃんのお使いのために電車に乗り、さらにバスに乗り、それから歩くこと二十分。



……迷った


おばあちゃんのお使いのために電車に乗り、さらにバスに乗り、それから歩くこと二十分。



此処、一体何処なの……?


寂れた商店街にひとり立ち尽くす。秋の冷たくわびしい風が、アーケードを吹き抜けていく。
この商店街に辿り着いてからというもの、同じところをひたすら歩き続けているような気がする。なんでこんなに広いんだろう。
……ただ広く感じるだけかもしれないという予感は、捨て置くことにする。
バス停の場所はわかるから帰ることは出来る。けれど、滅多に人を頼らないおばあちゃんの頼みだ。
無下には出来ないし、おばあちゃんはもう、そう長くはもたない。
……願いを、叶えたい。
その思いに駆られ、目的の店を探しているのだが……



人も通らないし、どの店のシャッターも降りているし。埒が明かない


まるで商店街全体が死んでいるような……と思ったその時だった。
私の横を、軽やかに黒猫がすり抜けていった。一瞬、ニヤリと此方をみて。



猫だ……


此処に来て初めて、生き物をみた。なんとなく、後を追ってみる。
さっきの表情が、『ついて来て』と言っているように思えて。



どうせ迷ってるんだし。今更、何処へ迷い込んでも変わらないよね


黒猫は尻尾を振りながら何処かへ向かっていく。軽やかな足取りで、小さな足で駆けていく。
置いて行かれないように、小走りになる。こんなに走るのは久しぶりだ。すこし、息が上がった。
黒猫を追いかけているうちに、見覚えのない路地へ入った。



ねえきみ、何処まで行くの?


答えが返ってくるはずもなく。
黒猫は、そのまま路地に並ぶお店のひとつへ入っていった。



……戻り方、わからないし、うん、此処まで来たんだし、最後まで、あの猫に賭けるしかないよね


黒猫が入っていけたということは、お店が開いているということだろう、きっと。
……それはつまり、人が居るということでもあるはずだ。
まずは扉へ近づき、隙間からそっと覗いてみる。
……暗幕が邪魔して、なにもみえなかった。



……どうしようかなあ





いや、もう、此処に賭けよう!!


意を決して、私はそのお店の扉を勢いよく開けた。
第二話へ、続く。
