結月の傍に行った明彦がまず声を掛ける。
しかし結月はどうも複雑そうな表情をしていた。



待たせたな、救世主よ


結月の傍に行った明彦がまず声を掛ける。
しかし結月はどうも複雑そうな表情をしていた。



…………





ユズちゃん、どうかした?


心配そうに美咲が声を掛けるが結月は首を振った。



ううん、何でも無い





ユズちゃん、アキ君に言いたい事があるんじゃないの?
そういうのは曖昧にしない方が良いと思うけど


しかし敬一にそう言われてしまえば隠す訳にもいかなかった。



……うう……相変わらずケイ君は要らない部分まで見抜くんだから……


結月は複雑な表情のままだが図星なのは誰が見ても明らかだった。



ユズ……俺に言いたい事があるのなら何でも言わないで欲しい
【逆:言って欲しい】


明彦も言うが、うっかり逆発言になってしまう。
敬一がそれを呆れた表情で見ていたが、様子を見るつもりなのか何も言わなかった。



別に大した事じゃないよ……アキはケイ君の前では普通に話すんだな……って思っただけ。それがちょっと悔しかったというか……もう言わせないでよね!


言いながら結月は照れてしまった。



つまりユズちゃんは俺が羨ましかったんだね。
ふふ……嫉妬って奴かな


楽しそうに口にする敬一に結月は更に真っ赤になってしまう。



もう! だから言いたくなかったのにっ!
絶対にケイ君からかうんだもん!!





ごめん、ごめん。ユズちゃんもアキ君も反応が面白いからついからかいたくなるんだよねぇ


そんなように話す結月と敬一に対し明彦はというと……彼も結月以上に真っ赤になっていた。



……別に嬉しくなんてないんだからな!


うっかり照れたままツンデレ発言になっている。



…………!


それを聞いた結月も無言で頬を更に赤くした。
そんな3人を見ながら美咲は戸惑うばかりだ。3人が知り合いであるのはわかるのだが、彼女だけは知り合いでは無いから結局蚊帳の外になってしまうのである。



自己紹介とか頼みたいけど……タイミングが難しいな


そんな彼女の困惑に気付いたのは敬一だった。



あ、ごめんね。君はユズちゃん以外とは初対面なのに自己紹介もしてなかったね





な!?
………人の考えを読むの止めて下さいっ


言い当てられた美咲は驚き、その事に悔しくなって思わずそんなように言ってしまった。



でも名前も知らないじゃ一緒に歩くのも不便でしょ





確かにそれはそうですけど……


続く敬一の尤もな発言にそう返しはするが、美咲は複雑な気持ちだ。



この人はチャラいから嫌いなのに……良く見て助けてくれたりするから腹が立つ





まぁ聞いてよ。
俺は神谷敬一。2人とは小学校の時の幼馴染でね。俺が小6の時に転校になるまで仲が良かったんだ。だから渾名で呼び合ってる。
君もあだ名で呼んでくれても良いけど真面目な子みたいだし……性格的に難しいかな?





この数分でそんな事まで見抜くなんて……


しっかり捉えてくれて嬉しいと思う所なのかも知れないが、美咲からすると悔しくて仕方が無かった。
そんな美咲の思いに気付いているだろうが、彼は追及して来る事は無く続ける。



俺の幼馴染のユズちゃんと仲が良いみたいだし……君の名前を訊いても良いかな?


名前だけ訊かれれば教える義理は無いと突っ撥(ぱ)ねる事も出来たが、結月の名前を出されたらそれも出来ない。



チャラいのも嫌だけど……この人頭が切れるんだ……。
そういう所も腹が立つな


美咲は内心穏やかでは無かったが、仕方なく答えた。



旗仲美咲です。ユズちゃんとは今日星華女子高校の入学式で知り合いました





美咲ちゃんか。とっても綺麗な名前だね


褒められた事に喜ぶべき所なのだろうが、言った人物が彼というだけで美咲は又腹が立つ。



……貴方に名前で呼ばれる義理は無いんですけどっ


その言葉に敬一はすぐに引き下がった。



ああごめん。旗仲さんって呼ぶなら良い?





……それなら良いですけど





それならそうする。
ただ代わりに敬語辞めて貰って良いかな? それなら俺も君に従うし





……貴方は普通に頼んだり出来ないんですか!?


美咲はそれに更に腹が立って返した。



俺が普通に頼んだ所で聞く気無いでしょ。だからこう言ってるだけだよ





これだから頭の切れる人は……厄介


美咲は内心そう思ったが仕方なく頷いた。



辞めれば良いんでしょ、敬語。宜しく神谷君


言ってる美咲は仏頂面で全く宜しくする気は無さそうだが、何だかんだ許可を貰えた敬一は微笑した。



ありがとう、旗仲さん





ふんっ


美咲は素直に返せずそっぽを向いた。
そんな彼女に苦笑しながら敬一は一連の流れを見ていた結月に話を振る。



折角だし、アキ君の事はユズちゃんが紹介してあげなよ。旗仲さんも仲の良い子の彼氏なんだから、ちゃんと紹介して貰いたいだろうし





た、確かにそれはそうかも……


結月は少し照れながらも頷いた。



ミサちゃん、あのね……彼が私の幼馴染で彼氏の白峰明彦。
同い年だから敬語とかは良いよ





宜しく


結月が示せば明彦も言い、美咲はそれに頷いた。



うん、宜しく。明彦君、で良いかな?





ああ、構わない


明彦が応じるのを見て、次に結月は彼に美咲を示した。



それからアキ、ケイ君と話してるの聞いたからわかってると思うけど……彼女は旗仲美咲ちゃん。
星華女子校で今日初めて会ったんだけど、趣味の話で盛り上がって仲良くなったんだ





そうだったのか。
美咲、ユズと趣味の話で語れる者は余り居ないから……これからも彼女を頼むぞ


同級生と聞いていたのでサラリと美咲を呼び捨てる明彦である。



うん、勿論。
ユズちゃんはとっても良い子だし、彼氏の明彦君もすっごく良い人そうで……紹介してくれて嬉しいよ





ふふ……有難うミサちゃん


美咲の言葉に結月も嬉しそうに笑った。



アキ君は普通に名前で呼ぶんだね旗仲さん……まぁわかってたから良いけど


そう言う敬一は内心微妙だったが、それを表情には出さなかった。



貴方は2人とは別枠だから当たり前でしょ


相変わらず敬一への対応は冷たい美咲だ。



ミサちゃんケイ君は気に入らないんだね……


苦笑する結月に美咲は力強く頷く。



私はチャラい人嫌いだし、さっきの会話で腹黒さもわかったから……頑張っても絶対好きになれないと思う





ケイは良い奴なんだがな……まぁ人によるところはあるだろうし


明彦はそれに複雑だが……責めるつもりは無いので苦笑するに留め、それ以上は言わなかったのだった。
