その頃星華男子高等学校。
こちらも入学式だけの1年生は既に授業が終わっており、明彦は既に帰り支度を終わらせて敬一と一緒に結月からのラインを待っていた。
その頃星華男子高等学校。
こちらも入学式だけの1年生は既に授業が終わっており、明彦は既に帰り支度を終わらせて敬一と一緒に結月からのラインを待っていた。



あっちは結構時間が掛かってるのかな


呟くように言う明彦に敬一も静かに応じる。



どうだろうね?
まぁでも女子高だから男子校よりも生徒に言うべき事があるんじゃないのかな?決まりとかも多そうだしね





そうだよな





アキ君今ユズちゃんがアキ君と会話するのが嫌がってラインしてこないんじゃないかって悩んでるでしょ?





う……





図星って顔だね、アキ君。もう少しユズちゃんの気持ちを信じてあげたらどうなの?





信じる……?





彼女に片想いしていたのは明らかにアキ君の方が長いし難しいかも知れないけど……確かに彼女だって君の好きだって気持ちに応えてくれている訳でしょう?ユズちゃんだって君を好きだって思ってるから幼馴染から恋人になる道を選んだんだよ。
そんな彼女がちょっとした出来事でアキ君を嫌いになるなんて有り得ない話なんだよ? そこはちゃんと信じてあげないと





そうかな





そうだよ。いつまでも自信ないってヘタレてたら一緒に居る彼女の価値も落とすんだからね?
彼女はそんな君が好きだと思って彼女になってるんだから





確かにそうだよな……





そうだよ、だからもっとどんと構えてないと





そうだな、そうしてみる





うん、そうしてなよ


そんな会話をしていると明彦のスマホが震えた。
ラインの通知音も鳴る。
ジャジャーン



ちょっと待ってアキ君何その通知音!





ん? ユズの好きな曲だと聞いた奴だよ?
この後台詞が入って歌が入るとか言ってたような……





我こそ白銀の翼を背に持つ罪深き闇の支配者!
さぁ貴様もこの大魔王銀河と契約して抱かれよ!





別に君の事なんて好きなんかじゃないからね!
どうしようもなくって言われたから君の為のラブソングとか歌ってるだけだからね!





君に出会って世界が変わった~♪ 君こそ我の救世主(メシア)なの、だと~♪





君に出会って世界が変わった~♪ 君が居るから俺は変わったんだ~♪





我の物だと伝えられたら~♪





恥ずかしくって言葉にできない~♪





君のために歌を歌うよー♪





言葉よりも届けたい、から~♪





ちょっとアキ君早く止めて!
これは流石に俺も恥ずかしくて他人の振りしたいから!!





そ、そうだなわかった!
ちょっと待って


明彦は慌ててスマホを操作する。
するとどうにか歌は止まった。



はぁびっくりした。
アキ君ユズちゃんに惚れ込み過ぎて遂に彼女の好きなゲーム曲を人前で流せるようにまでなったの……?





違う違う、違うから!
これはスマホに変えた時にユズにやって貰ってそのままにしてたんだよ。
普段は通知音出さないからこんな曲だったとは知らなくて……流石に俺も恥ずかしかった……





成程ね……中々大変な恋人を持ったねぇ君も





そうみたいだな……まぁでも惚れた方が負けだしな。
受け入れるよ


そんなように言った明彦に敬一はふと問い掛ける。



そういえばアキ君はユズちゃんを好きになったきっかけってのは何かあったの?





好きになったきっかけかぁ……


明彦は数秒熟考するが、やがて短く応えた。



無いな





結構考えてたけどそういう結論なんだ





色々なユズの様子とかユズとの思い出とか全部浮かべたけど……どれを取っても思う事は一つだったんだ。
どんな時でも好きだなってそればっかり思った。気付いたら好きになってて、守ってあげたいって思ってて……その為にばかり動いてた。
……それこそ息するように好きだって思って行動してたんだ





言うねぇ





恥ずかしい気持ちもあるけど、本当の事だからな


言いながら笑顔を向ける明彦に、敬一は呟くように言った。



そうなんだ……ちょっと羨ましいよそういうの





羨ましい?





俺も恋愛経験はあるし彼女が居た事もあるけど……そんな強くて純粋な気持ちを持った事は一度も無いんだよね。
だからいっつも上手く行かなくて終わっていった





ケイ……?





いっつも始めたがったのも終わらせたがったのも彼女の方で、最後の言葉は全員一緒。『敬一君の好きって気持ちが伝わってこない。だから嫌になった』って。
そう言われると俺も面倒になっちゃって……だから別れた





…………


沈黙する明彦だが、そんな彼の表情からも全て読み取ってしまう敬一は慌てて取り成すように言った。



あ、大丈夫だよ。そんな一生懸命俺に掛ける言葉考えたりしなくて。
俺別に別れて来た彼女達に未練がある訳でも無いから今話した事で何か思うとかそういうことも無いし。
ただ失敗して来た俺とアキ君とユズちゃんは違うから大丈夫だって言いたいだけ。だからアキ君には俺の分も幸せになって貰いたいんだよね。
……ほら、さっさと行くよ?
大事な彼女がお待ちかねでしょ?


そう言って鞄を持って動き出そうとする敬一に……明彦は静かに呼び掛けた。



ケイ、あのさ





ん?





ケイはまだ出会ってないだけだと思う。大切にしたいと思う運命の人に。
だからケイだってまだ諦めなくたって大丈夫。ちゃんと幸せになれるよ





アキ君……





だってケイはどうしようもない俺の話を親身になって聞いてくれて一生懸命アドバイスしてくれるようなすっごい優しい良い奴だから。
俺が保障するよ





……本当に君は恥ずかしい人なんだから……困ったものだよ





褒め言葉として受け取っておく。
……さぁ行こうか。しっかりフォローしてくれよ





しょうがないなぁ……任されてあげる


そして男二人も待ち合わせの分かれ道に向かって歩き出したのであった。
