逃げられるかと思ったのですが、小岩くんは素直に私の後ろをついてきてくれました。

　教室を出て一階まで降りると、私は職員室の方へと向かいます。

　不安そうな岩見さんに私は笑顔で答えます。職員室の隣は事務員さんたちの仕事場になっていて、教室にいると見ない人たちが学校のために働いています。その扉を私は二回ノックしました。

　こちらは事務の渡会(わたらい)さんです。先生の仕事を定年退職した後も学校の力になりたくて事務員さんをやっているのだそうです。

　そうなのです。学校にはちゃんと防犯カメラがつけられていて、不審な人が入ってこないかチェックしています。私たちが使う下駄箱は出入り口、つまり一番カメラで見ていないといけない場所なのです。

　背中に視線が刺さっているのは気のせいじゃないかもしれませんが、ここまで来たら後には引けないのです。私も、小岩くんも。

　そう言うと、渡会さんは私たちのクラスの下駄箱あたりにつけられたカメラの映像を持ってきてくれました。

　ちょっと画像の荒い映像ですが、確かに私たちの使っている下駄箱です。なんだか警察の調査みたいで、私はドキドキしてしまいます。

　昨日の夕方、下校時刻近くに岩見さんが自分の靴を取り出しているところでした。時間はタイマーを見ると、午後五時過ぎです。

　岩見さんの下駄箱は一番上なので、カメラからよく見えて、誰かが近付いたら簡単にわかってしまいそうです。

　そして少し早送りをしながら、岩見さんの下駄箱に怪しい人物がいないか四人でじっくりと見ていきます。

　下駄箱の周りはすっかり人もいなくなって、犯人どころか誰も通りません。

　ライトの光がゆらゆらと揺れながら前に進んでいきます。私は絶対に夜の学校の中なんて入りたくないんです、幽霊さんが出てきそうで。この人はとても勇気があると思います。

　部活に出るためか早くから登校する生徒の姿が映りはじめますが、やっぱり岩見さんの下駄箱に何かを入れているような人は映っていませんでした。そして。

　予鈴の三十分ほど前になって、岩見さんが登校してきました。そこであの手紙を見つけて、中を覗いています。

　結局最初から最後まで見たのに、怪しい人は一人も映っていませんでした。下駄箱は鍵はありませんが扉がついているので、開ければこのカメラからでもすぐにわかると思います。でも開けられた映像はどこにもありませんでした。

　だって下駄箱に近づかず扉も開けずに中に手紙を入れるなんて、そのくらいしか。

　そのときピン、と高い音が鳴って、事務室の中に金色の輝きが舞いました。

　落ちてきた金色のコインを掴むと、小岩くんはまた微笑んでいました。