フラフラと、いつもの薔薇園に戻り、彼がよく座っていたベンチに腰を下ろす。
昨日のままだった、彼の読みかけの本が置かれたまま。ふと、それを手にしてページを開く。
フラフラと、いつもの薔薇園に戻り、彼がよく座っていたベンチに腰を下ろす。
昨日のままだった、彼の読みかけの本が置かれたまま。ふと、それを手にしてページを開く。



楽しい家族計画………って……なんて本を読んでいるんだ


思わず苦笑する。
彼なりに思い悩んでいたのだろう。 こんな本を読んでいるのかよ ってからかいたかった。そうしていれば良かった。
もう、からかえない。



これが、おれとヴァイスの話だ





……


話し終えてから、白猫ヴァイスの顔色を窺う。彼の表情に変化はなかった。失望しただろうか。



お前は兄貴の姿をしているが兄貴ではない





君が望むなら、ボクは君の兄のヴァイスになりきる。





え?


意外な言葉に目を見張る。



ボクがヴァイスになるよ


そんな屈託のない笑みが返ってくるとは思わなかった。



おれ、どうしてだか色々忘れていたみたいだ。自分の犯したこととか、お前のこととか、色々。それを思い出したんだよ。





え?





兄貴を喪ったことから立ち直れなかった。双子の半分、身体の半分がなくなったんだ。





……





だから、動物たちを兄貴の代わりにしようって思って飼ってみた.けど、ダメだった。何がダメかって?





ボクは猫で、彼は人間だから?





それも、だけど。完璧な兄貴のようにしようって、綺麗に手入れしてやったんだ。そうしたら、親父にとられて……みんな剥製にされてしまったんだ。得るたびに、何度も何度も喪ってしまった。今までの【ヴァイス】はみんな死んでしまった





……………





だから、お前は小汚い猫のままにした。もう喪いたくない、友達だからな





それじゃあ、ここで一緒に暮らそうよ





ここじゃダメだ





どうして





こんな籠の中にいたのでは、何も変わらない。





変わらなくて良いじゃないか?





ごめん、おれは変わりたいんだよ。思い出した。いや、今、思った。お前と数日間この籠の中で過ごして思ったんだ。おれは兄貴と出来なかったことをお前とやりたい。一緒に色んな場所に行きたい。一緒に行こう。





………





それに、記憶が戻ったからわかったことだけどさ、こんな場所にはいたくないんだ


シュバルツはニヤリと笑う。吹っ切れたわけではない。だけど、何もしないのは嫌だから……渡されていた鉈を握りしめ、虫を潰す。
≪お前の所為で≫



そうだよ、おれの所為だよ。おれの所為でヴァイスは死んだ。だからって、こんな場所にはいたくないさ


ふと見上げると光に包まれた人影が見えた。
思わず、目を見張る。



お前の所為じゃない。これは二人の罪だ。僕たちは双子だよ。いつも半分にして分かち合って来たよね。罪も半分、痛みも半分





!





一人で背負うなよ。半分は持っていくから……………





………





ほら、軽くなっただろ?


あの余裕の笑みが見えた気がする。



………そうだな……兄貴


ふと、視界が変わる



…………


目の前で、メルが嗤っていた。
いつの間にか、薔薇園からギルドの部屋に移動していたらしい。
側にヴァイスはいない。シュバルツとメルで向き合っている。彼女は嘲笑うでもなく、優しく微笑むわけでもない。ただ、笑顔を浮かべている。



おや?憑きものが落ちたようですね。





そういえば、軽くなった気がする





貴方が背負っていたものは、ご自身の罪悪感。ただ、それだけでした。それだけで、ずいぶん憑かれていましたね。





悪かったな





今の貴方なら、ココより先はどうしますか?





おれは……





おっと、その質問は早かったみたいですね


パンっという音が鳴った。
また、薔薇園に場所が移動したらしい。
視線を動かすと、ヴァイスがジッとこちらを見ている。



君はボクを捨てないのか?





当然だろって。拾ったのはおれなんだ。責任もって面倒見てやるよ。





………そうだった。君がそう言ってくれたからボクは君の後を着いて行ったのだよね。





ヴァイスはおれの兄貴だ。悔しいけど、それは認めてやるよ。でも、お前は……猫のヴァイスはおれの弟だ!





シュバルツ………





何?


ヴァイスは鉈を握りしめると、薔薇の前に立つ。
目の前の虫を勢いよく潰すと、光のない目をこちらに向けた。



ボクの罪の告白を聞いてくれるかな


