夢をみていた。
夢をみていた。
懐かしい風景が見える。
重い、
重い瓦礫が、
あの人を押しつぶしていた、
なんで、
誰も助けないのだ、
あんなに重い物が……
身体の上にあったら動けないのに………



ああ、あれは※んでるな


誰かがそんなことを言っていた。
どうして、助けないのだろう。オレはそう思いながら彼らを見ていた。



偉そうなことを言って、自分が※んでは意味がないだろ





ああ、※んでいるんだ。報酬は払わなくて良いだろ





厄介な魔物もろとも※んでしまうとは、有難いな





魔物を殺さないで追い払う……だなんて、バカなことを言うから※んだんだろう。これは罰だな


おかしいだろ。
あの人は、あの男たちに頼まれてここに来たのに。依頼通りに、彼らが頭を抱えていた魔物たちを追い払おうとした。
ああ、
耳障りな声だ、
聞きたくない………



…………ダメ……だよ。デューク、憎しみに身を任せては


何で、こんな時にまで貴女は優しく笑うのだろうか。貴女の前でオレはどうすることも出来なかった。
自分の無力さを呪った。



罪が重くなれば、潰されるのはデュークなのよ


貴女は手を伸ばして微笑む。
これは夢だった。
これは、
あの時、交わした言葉ではない。
オレは、あの頃よりも成長したはずなのに……



罪……罪の重さ………か。ごめん、今はあの頃よりずっと………


重い
苦しい



これは


夢なのか現実なのか分からなかった。だけど、この重みは現実のようだ。目を開いて視線を動かす。お腹の上にラシェルが乗っていた。どうやら、寝ている間に【人間時間】が訪れていたようだ。



あ、おはよう





重いから、どけてくれないか?





あ、ごめんごめん


これはラシェルだけの重さではなかったらしい。続いて……



すみません


ヴァイスがどける。



悪いな


シュバルツがどける。



失礼しました


なぜかアークまで謝罪の言葉を呟いて離れた。



アーク、お前もか?





いや、気持ちが良いと言われては……


真面目な顔で言われては言い返すことが出来なかった。何より、アークのお蔭でゆっくり眠ることが出来たのだ。



休ませてくれたことには感謝している





こちらこそ、モフモフを堪能できて感激しています





アークも負けていないと思うが……


オレは立ち上がって、あることに気付いた。



あ……





どうしたの?


ラシェルの前に、クリスから預かっていたものを差し出す。もう見るも無残になっているが、原因は彼女たちがオレを押しつぶしたからだから文句は言わせない。



ラシェル……これを





それ何? 甘い匂いがするけど……





カップケーキだ、そうだ。クリスがお前に渡せと………言っていたのだが、どうやら重みに耐えきれなかったらしい


クリス、と名を聞いた途端にラシェルの表情が曇る。事情は分からないがラシェルはクリスを嫌っていた。



惨劇だね。クリスが作っただなんて、それだけで呪われてそうだけど、食べなきゃダメかな





あの男の善意だから、食べてくれ。


むーっと唸りながらラシェルはケーキの残骸を一口。



美味しいから、悔しい……





気分は?





絶好調だよ。でも、胃薬は欲しいね! アークさんに貰ってくる


酷い言われようだが、褒められていたようにも聞こえる。おそらくラシェルは直接は言わないだろうから、オレが後で伝えなければな、



デュークさん


ラシェルがアークのところに走っていった。そのタイミングを見計らったかのように、背後にヴァイスの気配が現れる。



なんだ?





奉仕活動ですが、ボクたちも行こうかと思いまして





お前は、やりたくないように思えるが





実はシュバルツは前々から外に出たいと言っていたのですよ。それをボクが引き留めていました





それで?





ボクは今でも外に出たくないです。だけどシュバルツは違っていました。デュークさんが行動を起こしたのでね。荒療治ですが、一度憑かれてみたら分かるかもしれません。外に出たい、だなんて思わなくなるかもしれません





オレのせいか?





そうじゃありません





オレは憑かれても、外に出ることを諦めていないが?





デュークさんにはラシェルがいますからね。貴方はあの子をここに置きたくないと考えている


こいつ、鋭いな。オレは目を細めて彼を見やる。その辺にいる子供とは何かが違う気がする。シュバルツは、どこにでもいる学生に見えるが彼からは底知れぬ何かを感じた。



ここにいたら狂ってしまうからな。アイツは、どんなに迷っても、迷いながら進んでいる。若さゆえなのだろうな。アイツが広い世界を歩くためにも、オレはここから出たい……





ボクたちは違います。ボクたちは迷って、迷って、迷った挙句にここに辿り着きました。
ボクは彼の為に、彼を追ってここに来たのです。だから今度は彼がボクの為に残ってくれることを期待したいのです





そうか……





先の見えない曖昧な外の世界で迷うより、この世界で壁にぶち当たりながら生きていきたい。実はここって外の世界の現状も見ることが出来るのですよ。興味があるのならアークさんに聞いてください。ボクは外の世界が怖いことを知っている。だから、安全な籠の中で生きたい





奉仕活動に参加することにオレの許可はいらないだろ。





そうですけど……聞いてほしかったのですよ、誰かに。シュバルツには言えないことなので





あまり会話するな。ルール違反になるからさ





そうでしたね。すみません


