シュバルツの声に無表情で振り返ったのは白猫だった。



おい、こらヴァイス!


シュバルツの声に無表情で振り返ったのは白猫だった。



遅いよ、シュバルツ。それと、名前呼ばないでよ





は? 他に呼び方ないし、面倒なんだよ。それと待ち合わせ場所が間違っているぞ。鳩時計の下だぁ? 古時計って言ったのはお前だろ





………………………間違っていないよ


白猫は、呆れたように呟く。



はぁ?





【古い鳩時計の下】ってボクは言ったはずだけど?





………


少しずつ、シュバルツから表情が消えるのを横目で確認していた。



……………





そんな昔の話は忘れたさ





どの古時計の下だと思ったの?





古時計と言ったら、大きいのだろ





やれやれ……


白猫はため息を吐いてから、こちらを振り返る。



………デュークさん、お騒がせ致しました





気にしていない





そちらも合流できたみたいですね。良かったです





ああ………何というか…………大変だな、お前も





はい、大変です


オレと白猫は同時にため息を零す。シュバルツは不機嫌そうな表情を浮かべて、ラシェルはきょとんとした顔をこちらに向ける。
そして、目を瞬かせて白猫を見ると、



初めまして、ラシェルです


ペコリと頭を下げた。



元気そうな子ですね。ボクは白猫………ヴァイスです





お前、名乗って良いのか?





シュバルツが名前を呼んでしまったからね。隠しようがないし





そうだな、隠せないよな





それで、どうしてシュバルツはデュークさんたちを連れて来たんだい?


どこか苛々しているようにシュバルツを見やる。どうやら、彼はオレたちが一緒なのが気に入らないようだ。オレだって、この二人のことも、アークことも完全には信用していない。



アークのところに行こうと思ってさ。コイツらも休む場所を探しているって言うからさ





そうだったのですか





目的は一緒だ。大勢で行けばあのオッサンも折れるだろ





そりゃそうでしょうが……大丈夫ですかね


何だか空気がおかしい……



アークさんのところに行けば休めるんだよね?


ラシェルも心配になったのか、再度シュバルツに確認する。



あ、ああ……そ、そのはずだ?


頼りない返事が返って来たので、オレも重ねて確認する。



本当に休めるのか?





ととととと当然じゃないかー、来る人を拒まないからなー





なぜ、棒読みなんだ


不安が大きくなった。そんなオレたちのやり取りを黙って見ていたヴァイスが、冷たい視線をシュバルツに向けた。



もしかして、シュバルツ。お二人に何も言ってないね





?





やれやれ


そう言うとヴァイスはオレの前にちょこんと座る。



ボクたちも休む場所を求めてアークさんのところに向かうつもりでした。ここで、安全な場所ってあそこぐらいですからね。





ああ





あの人はお人好しのオジサンですが、いつでも頼みを聞いてくれるわけじゃありません





だろうな


そういうことだったのか。
ラシェルはまだ首を傾げている。



あの人も気まぐれですからいつでも休ませてくれるとは限らないのです。ボクたちは警戒されているみたいで……あんまりしつこいと追い払われます。というか、門前払いはほぼ確実。ですが……





……四匹で行けば断ろうにも断れないだろうな。オレとラシェルは新参者。世話好きだという、あの男がラシェルを無下に追い払うとは思えない。お前たちだけ門前払いで、オレたちだけ大丈夫なんて、ことはしないだろう


ラシェルが目を瞬かせる。



私がどうかしたの?





いや、お前は役に立つってことだ





そうなの?


嬉しそうに微笑むラシェルにヴァイスも温厚そうな笑みを向けた。



そういうことです。一緒に交渉しましょう!


