夜の楽坂公園で美咲と修行を始めていた敬介。
夜の楽坂公園で美咲と修行を始めていた敬介。
その最中、
突如として襲ってきた謎の人物。
そいつの左肩には気絶している美咲が乗っている。
敬介は右足に力を込め、
そいつの繰り出す右拳めがけて,
渾身の蹴りを繰り出した。



やったか?


お互いの攻撃がぶつかり合い、
大きな衝撃音がなったのだが,
相手はビクともしていない。



…………。


敬介がそいつの顔を見ると、
口元がニヤリとしているのが分かる。
足を戻し、
すぐさま後ろに下がり様子をうかがう。
何か策がないか必死で考えるのだが、
実戦経験もあまりないため、
こういう時にどうしたらいいのか分からない。
自分がこの状況を打破しなければ。
敬介は次の攻撃に移る為に右足を構え始めた。
辺りは静寂に包まれているはずなのだが、
空から甲高い音が聞こえてくる。
敬介がそれを認識した直後。



円(まどか)の矢!!


声が聞こえると、
目の前の敵を円状に囲むように、
たくさんの光の矢が降り注いだ。



これはまさか……。


敵のその様は、
まるで牢獄にでも入っているかのようである。
もしやと思い、
後ろを振り返ると矢島が立っていた。



矢島さん!!





敬介君。
遅くなってごめん。
それよりこいつは?


少しだけ離れていた矢島が、
敬介の隣に駆け寄る。
敬介の顔は、
矢島が来たことでいくらか和らいでいるのだが、
美咲が捕まったままなのは変わらない。
そのため、
表情は多少引きつっていた。



分かりません。
突然現れて襲ってきたんです。
シャドーでもなさそうだし。
いったい……。





そうか。
おそらく門の奥から来たやつだろう。


敬介たちと敵との距離が保たれているなか、
状況を把握しようとしているのだが、
矢島にもいつもの冷静さがない。
それを見てしまった敬介はさらに不安になる。
矢島が状況を把握仕切る前に敵は動き出した。
抱えていた美咲を足元に放り投げた後、
右手の指を全て90度ほどに曲げ、
その場で左右に一回転した。
その回転速度は速く、
自らの周りにある光の矢でできた牢を、
その一瞬で全て消滅させた。
それを観た敬介と矢島の表情が歪めたのを確認すると、
敵はまたもニヤリと不気味な笑みを浮かべた。



やはり、
そう簡単には助けさせてくれないか……。
敬介君。
今回は僕でもかなり厳しい相手だ。
それに、
美咲ちゃんが捕まっていて状況は最悪。





いったいどうすれば?


ここからどういう策で戦えばいいのか、
下手な攻撃は美咲を傷つけることにもなる。
そして、
色々と考えを巡らせていると、
矢島はひとつの策が思い浮かんだ。
相手にあまり悟られないように、
矢島は正面を観つつ、
話し始めた。



ヤツを見たまま聞いてくれ。
僕が後方から援護をするから、
君は最強の一撃をヤツに与えてくれ。
頼んだ。





はい。


敬介が返事をすると、
矢島は秒速で光弓を出し、
大量の弓を放ち始めた。
走りながら右足に力を集中させ始める敬介は、
後ろにいる矢島を信じ、
まっすぐに敵に向かっていく。
敵は右拳を構えながら、
その場から動いた。
多数の矢が襲っていくため、
留まり続けることができなかったのだろう。
敬介が方向を変えて走るのに合わせ、
矢島もまた光の矢を打ち込む方向を変えていく。
そうこうしている内に、
敵と敬介の距離は縮まっていく。
敵もそろそろ蹴りがくることを悟ったのか、
交わすのではなく地面を踏み込み前方に飛んできた。



…………。





しかけてきたな。
やってやるよ!!


敬介もそこで攻撃を成功させるために、
地面を強く蹴り前方に飛ぶ。
両者の攻撃がぶつかり合う頃、
矢島の攻撃は止む。



やるな。


敵が始めて喋った。
声からして男だと分かる。
お互い、
そのまま衝撃で後ろへ吹き飛ぶ。
地面を滑るように下がっていったため、
それぞれの足元からは土煙があがる。



やっと口を開いたな。
お前はいったい何者だ?


敬介がそう言うと、
男は両手で印のようなものを結ぶ。
すると、黒いモヤとなって消えた。
あっという間の出来事。
一瞬、一瞬に死の可能性があった。
男ははいったい何者なのか。
この男の強さは、
今まで戦ったシャドー達とは比べ物にならないくらい、
強かった。



矢島さん。
天野さんは?


矢島に聞くと、
すでに美咲を背負い、
敬介に向かって歩いてきていた。



大丈夫だよ。
足にかすり傷があるようだけど、
他は問題なさそうだ。


矢島の言葉を聞いて、
敬介はその場に崩れ落ちた。
あぐらをかき、
頭をクシャクシャとすると矢島のほうを見上げた。



よかったぁ~。


満面の笑みで、
何も知らずに眠っている美咲の顔を見る。
