学校で起きた爆発事件のせいで、
母に夜の外出をさせてもらえなくなってしまった敬介。
学校で起きた爆発事件のせいで、
母に夜の外出をさせてもらえなくなってしまった敬介。
帰宅後に部屋でうっかり寝過ごしてしまい、
美咲との修行の時間が迫る。
敬介はとりあえず、
夕食を食べる素振りだけして、
そのまま出て行こうと考えながら階段を下りていた。



何か、
正当な理由でもあればな……。


そうつぶやき階段を下りきり、
正面にある玄関が見えた。
それと同時に玄関のドアが開く。



ただいまー。
あっ、お兄ちゃん。


この少女は花純(かすみ)、
敬介とは2才違いの妹だ。



おー、花純。
部活終わったのか?





うん。
大会が近いから練習大変だよ。
部活の後は3年生だけで反省会だったの。





そっか……。
はぁ、それより今日な……。





なんかあったの?


花純に母のことを伝えようとしたのだが、
先に溜息が出てしまったのと、
呆れ顔をしたため聞き返されてしまう。
靴を脱ぎ終え、
敬介まで近づいてくる花純。



あのな、今日母さ……。





かすみー!!
無事だったのね!!
よかったー。


やっと説明しようとしたのだが、
どうやら遅かったようだ。
母は花純を見つけると、
すぐさま抱きつき頬ずりした。



ちょ、やめてよ~。
お母さん。





はぁ……。


敬介は、
満足そうに頬ずりする母と困る妹の様子に苦笑い。
花純も苦笑いで敬介を見る。



遅いから心配してたのよ。
部活?





うん。
練習の後に3年生で反省会。


そして、
満足したのか、
頬ずりを止めた母はもう夕飯できてるわよといって、
リビングに戻っていった。



お兄ちゃんが言いたかったのはこれね。
久々にお母さんの心配病がでちゃうとは……。





だな……。


お互い頷き、
一瞬の沈黙後、
兄妹揃ってリビングに向かった。



お母さん、
とんかつとっても美味しいよ!


とても美味しそうに、
敬介の隣でとんかつとご飯を頬張る花純。



あら、それは作ったかいがあるわ。
もう1品作っちゃおうかしら?


花純の笑顔につられ笑顔になる母。
鼻歌を歌いながらキッチンへと向かう。
4人掛けのテーブルに、
向かい合わせで座っている父と敬介は、
小声で会話を繰り広げていた。



お前これから用事があるみたいだな?





ああ。
ただ母さんがこれじゃあ、
家から出してくれないだろ。





たしかにな。
母さんを納得させずに、
出て行ったのがバレたら厄介だ。
父さんもな……。


父がなぜ厄介なことになるかというと、
敬介がいないのを知った母を、
なだめてやらないといけないのが大変だからだ。
そういうこともあり、
父は終始苦笑いなのだ。



母さんのビンタ痛いから……。





だよな。
父さんには迷惑かけらんないし、
どうすっかな。


持っていた箸を置き、
腕を組みだす敬介。
それに、
リビングの時計を見ると、
時刻は午後7時30分になろうとしている。
そろそろ出ないとやばそうな時間になってきた。
方法がなかなか思いつかない時だった。
玄関の方からインターホンを鳴らす音が聞こえる。



あら。
誰かしらこんな時間に?


そういって、
母が玄関に向かった。
母が席を立ってから、
残った3人で話していた。



とりあえず、
明日には元の母さんに戻っているはずだ。


父が敬介と花純の二人に顔を近づけ言った。



そうだね、お父さん。
まずは今日を乗り越えよう。





ああ。


二人も父に顔を近づけ、
親指を立てあう。
そうしているうちに母が戻ってきた。



敬介。
学校の先輩が来てるわよ。





学校の先輩?
俺に?


よく分からない敬介だが、
母が席に着くのと入れ替わりで席を立ち、
玄関に向かった。



やぁ。こんばんは。





矢島さん!!
え、なんで?


玄関に立っていたのは矢島だった。



実はカラウさんに頼まれてね。





いったい何を頼まれたんですか?





今日赤い月が出てるだろ。
言ってなかったんだけど、
普段と違う月が出ていると、
シャドー達の力が増すんだ。
今日修行の予定だったし、
行き帰りが心配だからね。
それで迎えに来たんだよ。





そういうことでしたか。
でも、
今日家から出してもらえそうになくて……。


心配して来てもらえたのは嬉しいのだが、
今の状況では、
このまま母に黙って行くわけにはいかない。
さて、
いったいどうすればいいかと言い訳を考えていると、
リビングから母が現れた。



もし、話があるようならあがってもらったら。


立って話すのもどうかと思ったのか、
声をかけてきた。



お気遣いありがとうございます。
実は、
今日は敬介君を迎えにきたんです。





迎えに?





はい。
3年生と2年生の合同で、
先月入学した1年生が学校に馴染める様に、
話し合いをしてたんです。
だけど、
今日の集まりに敬介君だけ来ないから、
僕が代表して迎えに来まして。


突然、
嘘をついて受け答えを始めた矢島に、
敬介は黙って聞くしか出来なかった。
しかも、
その話が凄くリアルで、
嘘とは思えないような内容なのだ。
事実を知っている者でなければ、
コロッと信じてしまうだろう。
そう、母もだ。



あら、そうだったの。
あんたそんなことやってたのね。
先輩達と一緒なら母さん安心だわ。
いってきなさい。


ダメと言われると思っていたのだが、
意外とあっさり許可が出た。
それよりも、
特に状況を説明していないのにもかかわらず、
察して対処した矢島の対応力に驚いた。



ありがとうございます。
じゃあ、行こうか。
敬介君。


そういって、矢島は先に家を出た。



は、はい。
じゃあ、母さん。
いってきます!


早い展開に驚きつつも、
後を追うように敬介も出て行く。
