ラグジュアリーペントハウス!
その最上階!
恐るべき二人の騎士の住処である!



Prosit!





Prosit!


ラグジュアリーペントハウス!
その最上階!
恐るべき二人の騎士の住処である!



ふぅ♡
やっぱり殺しの後のシャンパンは素晴らしいわね~♪


実質無職であった、
キティ! ラプラス!
然れども庶民生活に服する道理なし!
騎士としての尊厳は不変なれば!
ラプラスはともかく、
キティは地獄に堕つともそうはすまい!
狼王専用シャトルを売り払った金で
このペントハウスを購入!
塾講師として再就職した、
ラプラスの給料!
そしてフェーデの名のもとに、
キティが略奪で得る多額の金銭をもって
二人は貴族的に暮らしている!



確かにうまいが…………
なあキティ卿、そろそろ、卿も就職をした方がいいのではないだろうか?





Scheiße! お黙りなさいプリンちゃん。その話なら先月もしたはずよ。今度蒸し返したらバラして生ゴミの日に出すからね。





しかしだ、異民族のギャングとはいえ人間だぞ? 財産を根こそぎにして皆殺しとは。ATMよりひどい扱いだ。金をとられるにとどまらず、ああも無惨に解体されるのだから。
キティ卿のことを思えば、私はそのような罪を重ねてほしくない……





Fick dich! 何が罪です。高貴なこの私が、必要なものを調達することがどうしていけないの? 私は好きに殺し、好きに奪い、好きに戦います。検非違使とやらが咎めるなら、それも殺す。わかった?





わからなくても静かになさいね。これからトイファイトの中継が始まるのだから。
カケト~♡ がんばれ~♡





Fick Hündin Arschloch!





わっ!? 悪かったキティ卿!


テレビには文字!
「緊急ニュースにより放映中止!」
と!



まったくろくでもないわね……どこの下郎か知らないけれど、私の楽しみを邪魔した以上は覚悟なさい。次のフェーデはあなたにするんだから……


ゲルマニア帝国!
月都モーントシュタット!
ヴォルフストゥルム城!
鏡玉の間!



ただいま、私は狼王の位を返上いたします。我が、まことの狼王へ。


玉座に座るマーヤは立ち上がり!
優雅な動作で座面を払う!
頭に狼をかたどった冠を載せて!
マーヤはややよろめきながら歩く!
純金と宝玉からなる冠は、
マーヤにはやや重すぎる!



余はそなたの働きを嘉納する。
狼祖ヴォルフスケーニヒがおのが牙によって王位を得たごとく、余も自らの力で王位を得よう。


アドルフに歩み寄ったマーヤ!
アドルフは堂々たる態度で手に取る!
マーヤの被る冠を!
おお! おお! おお!
Was für Wolfskönig ist er!
何たる威風! 何たる荘厳!
おのが手で戴冠せることの高貴さよ!
アドルフはまさしく狼王!
狼の中のまことの狼なり!



ここに! 余アドルフ・ホーエンツォレルン=ハプスブルク・フォン・ヴォルフスケーニヒは、全ゲルマニアの狼王となったことを宣言する!





アドルフ狼王陛下万歳!





おめでとうございます、陛下。





アドルフ陛下万歳!





万歳! 神々の恩寵あれ!





……良かった……あのサイコな姫さんが狼王でいるよりゃ、これでずっとましな世の中になるぜ……マジで良かった……


歓呼の声を上げる廷臣たち!
おお!
彼らの声は歓喜一色のみ!
アドルフの即位に意を唱える愚か者は!
マーヤの手でとうに討伐されている!
マーヤに思うところのある者も!
マーヤに計画された王権移譲に好意的だ!
本人が天位にあるよりも、
遥かに納得がいく!
この日、
ゲルマニア帝国始まって以来、
初めての例外状態は終息した!
女の狼王の治世は終わり!
大粛清と謀略の時代も終わった!
まことの狼王のもと、
正当なる秩序の時代が来る!
ゲルマニアのエスタブリッシュメントの
大半はそのように考えた!



結構、結構……!





さて。狼王となった朕は、ある事業を再開しようと思う。世界統一だ。


夢の庭の接収が失敗して以来!
世界統一計画は凍結されていた!
謀反人の処罰やアドルフの介護で
マーヤが忙しかったために!



狼王アドルフが命じる! ゲルマニアの血を引くすべての戦士よ!
「我が元へ参陣せよ!」との命を聞け!





我が元へ参陣せよ!


あな! あな! あな!
げに恐るべき声音なり!
威風堂々の騎士二人の脳内に
狼の中の狼たる魔獣の声が響く!
ゆめTVからには非ず!



アドルフ♡ いつの間にか大きくなったこと……♡





今の声は!? いや、それよりもキティ卿! 卿は知っているのか!? この新しい狼王を!





当たり前でしょう。……と、思いましたけれど十年前ですものね。騎士叙任前の下っ端なら、狂狼の乱について知らなくても無理はないわね……





アドルフはね、十年前『覇狼遵咆(はろうけいほう)』の力に目覚めたの。





波浪警報……!?





Scheiße!


覇狼遵咆!
それは狼祖ヴォルフスケーニヒの振るった、
恐るべき超常の力!
かつまたヴォルフスケーニヒの子孫に
ごく稀に発現する超常の力!
覇狼遵咆の能力は
ゲルマニア人への絶対命令だ!
祖先に一人でもゲルマニア人がいれば、
能力の対象となる!
覇狼遵咆の命令は細胞レベルで働き、
ゲルマニアの血を引く限り!
抗うことは決してできない!



初代狼王がこの能力を使って、各部族に分かれていた当時のゲルマニア人を一つにまとめあげて、ローマやアトランティスなどの異民族に対抗したのは知っているでしょう?





ああ。その覇狼遵咆か。波は関係ないのだな。


波は関係ない!
覇狼遵咆による命令は
時空を超えてゲルマニア人に届く!
月と地球など問題にならない距離だ!



十年前、不意にアドルフはこの覇狼遵咆に目覚めたの。当時の狼王はアドルフを危険分子と見なした。覇狼遵咆には今上の狼王でも逆らえないから。でも、弱点がただ一つ。





覇狼遵咆は、まことの狼にふさわしい強靭な意志力と、明晰な理性がなければ使えない。そこで狼王は、手下の騎士に奇襲をさせて、アドルフ皇子の意識外から精神干渉薬物を投与した……?





そういうこと。けれど最後にアドルフは「殺すな」と覇狼遵咆で命令していた。だから殺されることもなく、薬で心を狂わされたまま、冥王星に幽閉されていたの。





アドルフ皇子を慕うものが彼を解放しようとしても、冥王星では軽々には行けないからな……





幽閉などしないで、星間航行ロケットにでも載せて、宇宙の果てを永遠にさまよわせるようにでもすればよかったのに、間抜けよね。
完結を急ぐあまり内容に矛盾をきたすネット小説のような手落ちだこと。そのあたり、先代狼王も痴呆が始まっていたのでしょうね……





さて。とりあえずゲルマニアへ帰りましょうか。





しかし……我々は逐電した身だぞ……





そんなの問題じゃないわ。覇狼遵咆を使えば、私たちの意に反して帰らせることもできたのだから。
自発的に参陣させようとしているのは、きっと人材が足りないのでしょう。あの女は統治が下手だから、粛清をしすぎていることでしょうし。





よかったわね、プリンちゃん♡ ゲルマニア騎士としてさらに出世できて。





だが……やはり私は一度はゲルマニアを離れた身だ……覇狼遵咆で強制もされずに、おめおめと戻るなんて……あまりにも信義を欠いているように思う……私は、帰れない……





Scheiße! あなたって本当に面倒な性格ね。真面目にやってもつらいだけでしょうに……まあいいわ。私が先に帰ってアドルフにとりなしておくから。
あなたは残って、このペントハウスの荷物をまとめなさい。


キティは残りのシャンパンを飲み干す!
グラスでなくボトルからだ!



じゃあね、プリンちゃん♡ またゲルマニアで会いましょう。


ゲルマニア帝国!
ヴォルフストゥルム城!



こんにちは、アドルフ♡
十年ぶりね。即位おめでとう♡





キティ叔母さま! 参陣ありがとうございます。





Scheiße! その呼び方はおやめなさい! 私の年齢を誤解されるでしょうに! 次言ったら、あなたでも決闘以外の解決方法はありませんからね。


キティ・ヴォルフスキント・トーテントホター!
かの名は生まれつきの物にはあらじ!
かつての姓はヴォルフスケーニヒ!
栄えある狼族の一人なり!
然れどもキティは繋ぎ得ざる猫!
窮屈な皇女の身分を嫌って、
自ら望んで臣籍に降った!
臣籍にありながら自在の振る舞い!
憚らぬこと鬼神同然!
その恐るべき有様は
読者諸卿がご覧になった通り!



はは、失礼。しかし、あなたは面白い方だなあ! 覇狼遵咆で生殺与奪の権を握るこの余にも、そのような口をきくのだから……





さて。軍兵をそろえたところで、事業に取り掛かるとしよう。





狼王アドルフが命じる! ゲルマニアの血を引く全ての者よ! 朕の世界統一に協力せよ!





お兄さま……ご壮健なようで何よりです……マーヤはとても幸せです……お兄さまがそばにいて、お兄さまがこうも楽しそうにしていてくださって……お兄さま、ありがとうございます……


一か月後
ゲルマニア帝国の世界統一は
完了した。
覇狼遵咆はゲルマニアの血を引く
全ての者を対象とする。
この21世紀の現代にあっては
交雑はあまりにも進んでおり
紀元前のゲルマニア諸部族の血を
全く引かぬ者の方が少ない程であった。
多くの国の指導者が覇狼遵咆によって
ゲルマニア帝国への恭順を決定した。
指導者が覇狼遵咆の影響を
受けなかった国々も
ゲルマニア帝国勢力の巨大さに
恭順を選ばずにはいられなかった。
こうして
初代ヴォルフスケーニヒからの
ゲルマニアの悲願である
世界統一は達成された!
戦争さえ起こることなく!



……良かった……お兄さまの望みが叶って……お兄さまの幸せが、私の幸せでもあるのですから……


