幸いなことに、あれからすぐに市街地へ出ることができた。
幸いなことに、あれからすぐに市街地へ出ることができた。
新しい新居・岸ノ荘に到着した俺は大家さんに鍵をもらった。
階段を上り203号室に入る。
部屋は意外と広く、トイレと風呂を抜いても2部屋はある。
畳の上に荷物を置くと、ふと外を見た。
すっかり夕暮れだ。
少し距離がありそうだが、海が見える。
夕陽が海を綺麗に染め上げていたのだ。
誰かがドアをノックした。



誰だよ…


呟きながらドアを開ける。
立っていたのは自分より背が高く、大人びた顔立ちの女性。



初めまして、新参者さん


薄い銀髪の女性が警察の敬礼のポーズをとった。



隣の部屋に住んでいる露樹梓で~す♪


中身は全く大人びてなかった。



…どうも


礼儀として自分も名乗る。
露樹さんは不敵に笑った。



そうか…あなたね。うちのかわいい後輩を泣かせたのは


は?泣かせた…?



ほら、出ておいで


露樹さんに言われて顔を出したのは…目を赤くした江岸梨奈だった。



…………


彼女は子供のようにうつむいている。
露樹さんは目を細めて俺を見ている。
完全にこの状況を楽しんでいる。



嘘だろ……


全く予期していなかった事態に混乱する。
頭をかきながら気まずそうに目を反らすしか出来なかった。



なんでも、あんた梨奈に誰とも仲良くならないとか言ったそうじゃない


露樹さんが言った。



でもね、それはここでは無理な話よ。岸ノ巻は人がとても温かいの。どんなに悪ぶってる不良だって根はとても優しい。もちろん新参者の為に泣くくらいの器はこんな小柄な女子高生も持ってるのよ


ほら、と露樹さんはうつむく女子高生を促した。
江岸は意を決したように俺の顔を見て叫んだ。



あたし、工藤くんの最初の友達になる!!


一瞬固まる空気。
江岸だけでなく言われた俺の顔まで赤くなる。
露樹さんが



ま、まぁ。表現の上手下手はあるかもしれないけど……


と懸命にフォローしている。



子供の仲直りかよ…





こ、子供じゃないもん!


思わず脱力する俺。
真っ赤になってわめく江岸。



全く……アホらしい


心の中で独白する。
夕陽が沈むのを背中に感じながら、俺はいつしか笑っていた。



それに心を動かされた俺もアホ決定だな…


