三人の魔法使いたちから放たれた魔力がぶつかり合い、力の本流となって吹き荒れる。
三人の魔法使いたちから放たれた魔力がぶつかり合い、力の本流となって吹き荒れる。
それは本来ならば魔力を感じることができないはずの洸汰でさえ、強い圧力を感じて思わず後ずさるほどのものだった。



ぐぅっ……!


両腕を交差して顔を守りながら圧力に必死に抗っていた洸汰だったが、突然、ふっと圧力が軽くなったのを感じて顔をあげると、いつの間にか足もとに白い魔法陣が描かれていて、その淡い光に全身が包まれていることに気づいた。



魔力を使えない一般人のあなたがこれほど強力な魔力にさらされ続ければ、いずれ体が壊れてしまいます……
本当は一刻も早くこの場から遠ざかってほしいのですが、魔力が激しくぶつかり合うこの場では難しいでしょう……
ですからその中でしばらく大人しくしていてくださいね


白い少女に諭されてこくこくと頷く洸汰を横目に、黒い少女は内心で歯噛みしていた。



あのレネゲイドには私たちと拮抗し合えるほどの魔力はなかったはずだが……
部下たちから魔力を吸収したからか?
協会でもトップクラスの魔力を持つ私たち二人と渡り合うとは……





厄介なことになりましたね……


いつものようにテネスの内心を読み取るルクスに、けれどツッコむ余裕などなくテネスも首肯する。



ああ……
聞けば奴は……カレン・マルヴェンスは召喚魔法と身体強化が得意というじゃないか……
私たちと同等の魔力を全力で身体強化に回されたら、このままでは負けるのはこっちだ……





私も正直、彼女がここまでの魔力を持つようになるとは想定外でした……
……あれをやるしかない……ですね……


二人の言う『あれ』とは、魔法管理協会の中でも二人にしか使えない切り札のこと。
その切り札を使わざるを得ない状況だと二人が判断するほどに、カレンの魔力は凄まじかった。
そして、そう判断した二人の行動は早かった。
カレンから放出される魔力に対抗するために放出していた魔力を抑えると、はじけ飛ぶように大きく後退してカレンから距離をとる。
そして、一瞬のアイコンタクトののち、お互いの掌を合わせて呪文を紡ぎ始めた。



我が裡に巡る魔なる力よ!
我の声に応じよ!





我、求めしはかつて一つだった我が半身なり!





我が名はルクス!
白の魔法使いなり!





我が名はテネス!
黒き魔法使いなり!





今、我らのくびきを解き放ち……





我らの力を一つにせん!


二人の足元を中心に巨大な魔法陣が展開したのを見て、何かに気付いた使い魔のクロエが慌てたように主に警告を飛ばす。



まずいニャ!
あの魔法はあの二人オリジナルの超合一魔法ニャ!
二人にあれを使わせたらだめニャ!





…………っ!!


使い魔の警告に従い、カレンがすぐさま飛び出して魔法の行使を邪魔しようと攻撃を仕掛けようと飛び出す。
しかし。



カレンさん!!
一体どうして……!
どうしてこんな……!!


叩きつけてくる魔力の嵐がなくなったからだろう、洸汰がカレンの前に飛び出した。
流石に一般人の洸汰を攻撃することに気が咎めたのか、あるいは魔法を使えない洸汰を殺しても意味がないと判断したのか、ともかくカレンは足を止めて鋭く洸汰を睨みつける。



どいて!
今はあなたに構ってる暇は無いの!!
早くしなきゃあいつらが……!


そうしている間にも、白と黒の魔法使いの儀式は進んでいく。



…………っ!
ホントに時間が…………!?





どきなさい!!


ついにカレンは洸汰を殴り飛ばし、強制的にその場から移動させる。
そして、一気にルクスとテネスに飛び掛った瞬間だった。
一際魔法陣が激しい光を放ち、同時に魔力が爆発的に膨れ上がってカレンを吹き飛ばした。



きゃあっ!?


悲鳴を上げながらも、どうにかバランスを保って着地したカレンの目の前で、徐々に光が収まり、やがて一人の魔法使いの姿を浮かび上がらせた。



もう遅い……カレン・マルヴェンス……





我はイスラ……
協会の規律と秩序を守るもの……
さぁ、お仕置きの時間だ……


言い終わると同時に、イスラの掌に魔法陣が浮かび上がり、即座に発動された魔法がカレンに襲い掛かった。
身体強化魔法によって極限にまで高められた身体能力で咄嗟にカレンが魔法を躱した直後、それまで彼女がいた場所に魔法が直撃し、激しい火柱を上げて地面を沸騰させる。



まさか……
たったあれだけの火炎魔法であそこまで威力があるなんて……


砂利がガラス状に溶けた地面を見て驚愕するカレンに対して、イスラは魔法陣を次々と展開し、即座に発動させる。
火炎、氷塊、烈風、雷撃、岩塊、光輝、闇黒。
あらゆる属性の魔法が次々と襲い掛かり、カレンはそれを必死に避けていく。



このままじゃ押し負ける……!
相手は多分魔法による遠距離攻撃を得意とした魔術師タイプ……
なら、接近戦に持ち込んで一気に本体を叩く!!


業火が顔をかすり、髪を焦がすのも気にせずに冷静に分析したカレンは、強く地面を踏みしめて一気に魔法を連射するイスラへと接近する。



これなら……っ!!





ほう……
私を魔術師タイプと読んで、接近戦を仕掛けてきたか……
いい判断だ……





だが甘い!!


並みの魔法使いなら……いや、相当の実力を持つ魔法使いでも確実に直撃しそうな速度と、一撃で撃破できる威力を伴って放たれたカレンの拳を、しかし融合した黒と白の少女はあっさりと受け止めて見せる。



うそ……っ!?


乾いた音だけが虚しく響き、渾身の一撃を止められたカレンが、驚きのあまり眼を見開くその前で、今度はイスラが硬く拳を握り締めた。



生憎……
私は近接格闘も得意なんだよ……


言葉と一緒に放たれたその拳は、吸い込まれるようにカレンの鳩尾に直撃し、一瞬で彼女の意識を刈り取りながら体を吹き飛ばし、近くの巨木に叩きつける。



かはっ……!?


叩きつけられた衝撃で意識を取り戻したカレンはゆっくりと立ち上がりながら、けれど頭の中ではっきりと彼我の実力差を理解した。



このままじゃ勝てない……
それにせっかく集めた魔力もどんどん消費しちゃう……


意識が朦朧とするのを、頭を振ることで振り払ったカレンは即座に決断を下す。



クロエ……
ここは撤退しましょう……


側に駆け寄った途端に主に小声で囁かれた使い魔は、その意図を理解し、即座に行動に移した。



なう~~~~~~っ!!


黒猫が高らかに鳴いた瞬間、その体を中心に闇を引き裂くほどの眩い光があふれ出す。



うわぁっ!?





目晦ましか!?


咄嗟に腕を上げて網膜を焼かんばかりの光から眼を庇う洸汰とイスラ。
やがて、腕越しに光が収まったのを確認した二人の前から、カレンは使い魔と共に忽然と姿を消していた。
