一切私の方を見ない要くんに、なんて声をかければいいかわからなくてソッと隣に腰掛ける。
一切私の方を見ない要くんに、なんて声をかければいいかわからなくてソッと隣に腰掛ける。



……なんだよ。噂でも聞いて笑いにきたのか…





……ううん。落ち込んでるって耳に入ってきたから…探してて…





なら目の前から消えろ。……それだけで元気になる…。


悪態ばかりついているけれど、やっぱり今日の要くんは歯切れが悪い。
何があったの?
そう聞いたって無駄だよね…
元気を出して。
一体何に対して…そう言えばいいの。
どうやって彼にいつもの調子を取り戻してもらおうかと悩めば、自然に沈黙が続いた。
このままじゃ来た意味ない。



……要くん…この前怒ってたけど、石川くんのこともう尊敬してないの?





………なんだよ。いきなり





だってあんなに尊敬オーラ出てたのに、そうじゃなくなったら、同じ弟子として寂しいなぁなんて。


私が切なげに笑ったら、要くんは黙りと口を閉じてしまった。



……そうだ!前も聞いたかも知れないけど、要くんはどうして石川くんの弟子になったの?





………





私はね、彼氏が親友と浮気してる現場に鉢合わせちゃってね…すごく悔しくて。





……





更に暴露しちゃうと、初恋で大恋愛したんだけど、色々あってダメになっちゃって…不感症なんだ。石川くんならなんとかしてくれるかもって泣きついたの。


あははー
と声を出すと、要くんがやっと顔を上げてこちらを見てくれる。



…お前ただのミーハーじゃないの?





ミーハーって…違うよ。私要くんの言う通りブスだし、石川くんなんて遠い存在だったもん。初恋の相手と色々あった後に、やっと信用できると思ってた彼氏が、親友と布団の中で抱き合ってて、ヤケになってたの。





……可哀想な奴





…だよね!石川くんってばそんな私に嫌な顔せず付き合ってくれてるんだよ。ほんと凄いよね…!


やっとこちらを向いてくれたことが嬉しくて、少し話しすぎた…。
だけど良いか。本当のことだし。



…んでそいつに仕返しするために翔平先輩のこと使ってんの?





え、…ち、違う!違う違う!仕返しなんてしないよ!!





はぁ?





だってそんなことしても虚しいだけでしょ?


要くんの目が大きく見開いた。
何かおかしなこと言ってしまったかと、こちらは固まる。



虚しいって…なんだよ…





え、だって……ひどいことした元彼引きずってても仕方ないかなって。なら私は、原因であるこの身体を治して、次に幸せになれたらなって……





……何それ。悔しくないわけ?んなことされたのに。


悔しいか…
そうだよね。悔しくて悔しくて仕方なかったなぁ。
だけど今はそんな気持ちはどこかに消えた。



悔しかったからものすごく幸せなるっていう仕返しをするの!!!


満面の笑みを浮かべれば、目の前にいる彼は、正に鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした。



……お前って…底なしのバカだな……


そしてすぐに切ない表情で、何かを思い出したように呟く。



……大丈夫?要く





……俺もすごい馬鹿だ…


ぽつりと聞こえたその言葉に、私は彼が話しをしやすいように黙り込んだ。



……翔平先輩みたいになれるわけないのに。……あの人超える為に、騒いでる女の子誘ってみたけど、どうしても昔のこと思い出して出来なかった……おかげで今日は噂の的


やっぱり要くんにも何かあったんだ…
女の子ってどうしてもあんなに噂が回るのが早いんだろう……。



……要くんも…何かあったの?


ソッと丁寧に言葉を紡げば



……はぁ


と大きなため息が響いた。
ゆっくり時間を置いた後、意を決した様に彼は話し出す。



……初恋の相手が…ほんとに真剣に好きだった。この髪とか目とか宝石みたいで綺麗って言ってくれて、優しく触れてくれる先輩だった…。表情豊かな人で、すごく可愛くて…どんどん好きになっていった……





うん……





……笑われるかもしれないけど、結婚のことも真面目に考えてたし…その人のためならなんでもできるって…ずっとずっと一緒にいるもんだと勝手に思ってたのに。


段々険しい表情になっていく要くんに私もつられて険しくなる。
なんて悲しい声なんだろう…
なんて切ない声なんだろう…



…だけど…二股してたんだ彼女。そして何より…


そこで止まった彼は、顔を手のひらで抑えて悔しそうに震えていた。そして少し時間が空いたと思ったらソッと苦しげに呟かれる。



…俺の方が…浮気相手だった……


