一面に、色とりどりの花が咲いていた。
　こんなに美しい場所が、この世の中にあるのだろうか。

　懐かしい声が、後ろから聞こえた。

　……私が、この声の主を間違えるはずはなかった。ずっと、ずっと聞きたかったこの声を。

　振り向くとそこには、こっちを向いて優しく微笑んでいるタツキが立っていた。

　――そうか、ここはもう、きっとこの世ではないんだ。だからこんなに世界は美しいんだ。

　タツキの所まで走って、広げていた腕に飛び込んだ。

　最近はもう身体が動かなかったのに、まるで若い頃のように、羽根が生えたみたいに身体が軽かった。

　いたずらっこのような微笑みを、私に向ける。

　タツキがそう言って私の額にキスを落とす。すると、自分の身体に刻み込まれていた皺がすっとなくなり、タツキと別れたあの日のような若かったころの身体に戻った。

　タツキは、私の頭をそう言って撫でた。
　その言葉を聞いて、こらえていたものが一気にあふれ出た。

　ずっと抱かれたかった腕に、強く強く抱きしめられる。私も、それに返事をするように、タツキの身体をぎゅっと抱きしめた。

　タツキがそう言うので、見てみると、いつの間にか私の肩から小さな鞄が下がっていて、その中からたくさんの手紙があふれていた。

　達文に、死ぬときに棺桶に入れてくれと頼んでいたもの。

　何度も読み返して、ぼろぼろになったあの時の六通の手紙。私の宝物の一つだった。

　そう言って、懐から取り出したのは、あの時にしたためた私からの一通の手紙。

　私と彼の、合わせて七通の手紙は……私たちを繋いでくれていた。

私と彼の七通の手紙　‐完‐