洸汰に学校の屋上で別れを告げたカレンは、自宅で使い魔の黒ネコに状況を確認していた。
洸汰に学校の屋上で別れを告げたカレンは、自宅で使い魔の黒ネコに状況を確認していた。



それで?
状況は?





奴らは転送魔法陣でこっちにくるつもりだニャ……
けど協会本部の転送魔法陣には一度に転送できる最大魔力量の上限が決まってるからニャ……
恐らく最低でも二回に分けて転送してくるはずだニャ





そ……
猶予時間はどれくらいかわかる?





正確には分からニャいニャ……
でも一度使用した魔法陣への魔力チャージに時間を取られるはずだから……
完全にこっちに集結するのに半日はかかる筈だニャ……
それも白黒コンビが先陣を切らニャければ……という条件がつくけどニャ……





そうね……
特に黒いほうは自ら一番乗りしてきそうだし……





その場合は白が黒を抑えるはずだニャ
まぁ、黒と違って白はいやにニャるくらい冷静だから、きっと先発は偵察を兼ねて部下に任せるはずニャ





……となると、二人が来る前にできるだけ先発隊の数を減らしておく必要がありそうね……
いくらなんでも、精鋭部隊全員とあの二人を一度に相手取るのは無理だもの……





ということは……?





ええ、罠を張って待ち伏せましょう





了解ニャ!


そして一人と一匹は可能な限り急いで迎撃の準備を始めた。
――魔法管理協会本部 転送魔法陣前



……何ともじれったいものだな……


薄暗い部屋の中、騒がしく出発の準備を始める部隊を眺めながら黒い少女が呟き、白い少女もまた、必要な道具や武器を慌しく用意する魔法使いたちを眺めながら、軽く肩を竦めた。



仕方ないですね……
ここ最近は出撃続きで魔力の消耗が激しかったですし、一度に転送できる最大許容量を転送となると、それだけ大きく魔力を消費してしまいますからね……
魔法陣の魔力回復にはもうしばらく時間が必要でしょう……
その間に、彼らには必要な準備を進めて貰っているんですから、我々はただ泰然と時が来るのを待つしかありません……





それよりも私が驚いたのは、テネス……
あなたが我先にと先発隊に加わろうとしなかったところです……
あなたなら自ら先陣を切って、彼の地に乗り込むかもしれないと思っていたのですが……





お前は私をバカにしているのか、ルクス……
私だってそこまで考えなしじゃないさ……
あっちはあいつにとってホームグラウンドだからな……
どんな罠が仕掛けてあるとも分からん……





それに私は指揮官だからな……
先陣を切って暴れられるような立場じゃないことくらい自覚しているさ……





あら……
随分大人になったのですね……





ルクス……
やっぱり私を馬鹿にしてるだろ……


白い少女のコメントに、黒い少女はため息をつきながら肩を竦めた。



こんなものかな……?


すでに魔法少女としての姿に変身をしたカレンが、自分たちが設置した罠をぐるりと見回して、満足そうに頷く。



ホントニャら、あいつらが転送された直後にわニャで一網打尽にしたいところニャけど……
奴らの正確ニャ転送位置ニャんてわかんニャいからニャ……
だったらこっちが戦いやすい場所にわニャを張って誘い込んだほうが遥かにやりやすいニャ……





そうね……


使い魔の言葉に頷いてから、カレンは改めて自分たちが仕掛けた罠を見回す。
魔力を持ったものが上を通過した瞬間に爆発を起こす地雷式のものや、カレンの意思に呼応して起動して敵を捕らえるもの、中には大きく掘った落とし穴を幻術で見えなくした単純なものなど、たくさんのものが仕掛けられていた。
それらを最後にもう一度確認したカレンは、大きく頷いてから空を見上げる。



もうすぐ……
もうすぐだよ、お父さん……お母さん……
これからやっと……すべてが始まる……


カレンが呟くと同時に、街の空気が徐々にぴりぴりと張り詰め始めた。
そんな、徐々に空気が張り詰めていく街の中を走り続ける一人の少年の姿があった。



はぁ……はぁ……
なんだか空気が変わった気がする……
胸がざわざわするような……
嫌な予感しかしない……


街全体の空気が変わったことを敏感に察した洸汰は、ますます足を速めて街を走り抜けていく。
魔法使いに関わり続けてきたためか、あるいは元々持っていたものがカレンに出会うことで開花したのか。
原因は定かではないが、ともかく洸汰はカレンを中心に何かが起ころうとしていると予感していた。



正直、どうしてこんなことをしているのか……
何でそこに行かなきゃ行けないのか、自分でもさっぱり分からない……
だけどどうしても、そこに行かなきゃいけない気がする……





それに何より……
俺が足手まといになるとか、そういう理由も無く、あんな一方的に別れを告げられただけじゃ……
俺が納得できない!


少なからず、協力者として一緒に行動してきたことを思い返し、洸汰は強く決意した。
もう一度会って、彼女から納得の良く理由を聞くことを。
それがどんな結果を生むかは分からないが、ともかく少年は夜の街の中を走り抜けていった。



…………来た……


街の少し外れのほうで発生した大きな魔力反応を感じ取ったカレンが、ぴくりと顔を向ける。



思ったよりも近くだニャ……





ここに誘い込みやすいし、ちょうどいいわ……
行きましょ……


使い魔の黒猫を肩に乗せ、カレンが魔力反応を感じ取って急行した場所、そこは初めてカレンと洸汰が出会った再開発地区の工場跡地だった。
何となく因果なものを感じながら、カレンは眼下に転送されてきたばかりの協会本部の魔法使いたちの下へと、ふわりと舞い降りる。
突然のターゲットの出現に、魔法使いたちの間に動揺と緊張が走る中、カレンの声が響いた。



私は「極夜の魔法使い」、カレン・マルヴェンス……
魔法管理協会を憎み、復讐を誓ったもの……





これからあなたたちを……
私の目的のために殲滅します……


静かに少女が宣言し、同時に惨劇の夜が始まった。
