カレンの過去を聞かされた夜、部屋の電気を消したままベッドに寝そべりながら呟く。



親が掟を破った……
たったそれだけで何度も命を狙われる……
きっとつらい思いをしてきたんだろうな……


カレンの過去を聞かされた夜、部屋の電気を消したままベッドに寝そべりながら呟く。
洸汰には想像もつかないことだった。
裏切り者と誹られて両親を殺された挙句、その血を引くからという理由だけで命を狙われ続ける。
それが、どれだけの苦しみを生むのか。
それが、どれだけの悲しみを生むのか。
それが、どれだけ少女の心を蝕んできたのか。
想像することすらできなかった。



きっとあっちじゃ、ずっと命を狙われ続けてきたんだろうし……
こっちではあの子が魔法使いだって知ってるのは……カレンさんが魔法のことを話せるのは僕だけ……


はたして、自分にどれだけ彼女の力になれるのかは分からない。
何もできないかもしれないし、あるいは何か力になれるかもしれない。
たとえ何もできなくても……少しでも彼女の力になりたい。
少しでも彼女に楽しさを、幸せを感じてほしい。
それがカレンの話を聞いたときから、少しずつ湧いてきた感情だった。
だから洸汰は暗闇の中、しっかりと頷く。
とりあえず、愚痴だけでも聞いてあげようと心に決めながら。



昼間はどうしたニャ……
ニャんだかいつものカレンらしくニャかった気がしたニャ……


街灯だけがぽつぽつと道を照らす真っ暗な夜道をとてとてと速足で歩きながら、黒ネコが隣を歩く主人に顔を向ける。



もう少しでカレンの本当の目的を言ってしまうところだったニャ……
いくらあの小僧が協力すると言っても、魔法使いでもニャいあいつにできることはたかが知れてるニャ……
もし小僧から協会に情報が漏れてしまったら目も当てられニャいニャ……
そもそもニャんであの小僧に過去ニャんて聞かせたニャ?


小言交じりの黒ネコの質問に、主人――カレンはぽつりと答えた。



私だって最初は話すつもりはなかったよ……
でも、あの子はいい子だと思ったし……、それに私の過去を話せばこっちに同情的になってくれるでしょ?
そうなれば、きっともっと協力的になってくれると思うから……
それと、協会には話さないと思うよ……今日の話で、協会に悪い印象を持つようになったろうし……





それにあの子が側にいてくれるのなら、協会は私たちへ魔法を使うことはできない……





けど昨日の飛行魔法のガキは使ってきたニャ……





あ……あれは……
あいつがバカなだけだから……
きっと掟とかその辺を忘れてたんだと思う……
基本的に協会は、一般人の前では魔法を使えないよ……





……
カレンがそれでいいニャら、それでいいニャ……





そんなことよりほら……
ついたよ……


立ち止まり、カレンが指差した場所は街の外れにある古びた寺だった。



今度は当たりだといいんだけどニャ……


ぼやき混じりの使い魔の言葉に小さく微笑んで、少女は持ってきたリュックサックを下ろし、中からいろいろなものを取り出し、地面に並べていく。
木の棒で地面に何かの模様を書き、その中心に棒をつきたてて蝋燭で火をつける。
暗がりの中、炎に照らされて顔が浮かび上がる中、カレンはゆっくりと瓶に満たされた液体を模様の上に垂らした。
高い粘度の液体が地面に触れた瞬間、模様が紫色に発光し、その直後に光が同じ紫色の炎へと変化した。
 



やっと当たりみたいだニャ





うん……
ようやくみつけた……


紫の炎に浮かび上がった少女の笑みは、およそ彼女とは思えないほど暗い、昏い笑みだった。



…………
あいつらでも駄目だったか………
……報告ご苦労だった……
下がれ


報告に来た部下を下がらせて、黒い少女――テネスは背もたれに体重を預ける。



あの子たちなら……と期待したのですが……
駄目でしたか……


白い少女――ルクスから紅茶を手渡されたテネスは、小さく礼を言ってから紅茶を口に含み、喉を潤す。



ここまで協会の魔法使いたちがやられるとはな……
正直想定外だったよ……





だがそれももうおしまいだ……
次は我々自ら出向く……


魔力を溢れさせ、瞳を反転させながら宣言するテネスに共鳴するように、ルクスも瞳を反転させて魔力を溢れさせる。



ええ……
私たちと直属の部隊ならば、あの娘を討つこともできるでしょう……





散っていった同胞たちのために……
奴の命を捧げよう……





ええ……絶対に……


ですがその前に、とルクスは自分を落ち着かせるように深呼吸をして、紅茶を飲む。



今このときだけは……
命を散らしたあの子たちに冥福を捧げましょう……


そういって静かに目を閉じる白の少女に習うように、黒の少女もゆっくりと目を閉じ、心の中で同胞たちに冥福を捧げた。
それから少しして、同時に目を開けた白と黒の少女は互いに頷くと、すぐに部下を呼び出した。



直属の部隊に出撃命令を!
我々も直ちに出撃します!





目的地は日本!
我々の手でレネゲイドを……
カレン・マルヴェンスを討つ!!


鋭く返事をして、慌しく部下が去っていく。
そして誰にとっても大きな戦いが始まろうとしていた。
