小暮はナルサワからもらった情報を語り始めた。
この女の幽霊は若本ほの香(享年38歳)
そして天才少年歌手、梅本、本名は若本孝太(享年12歳)であった。



あれから君の事をずっと考えていたんだ。いや、正確にいうと君が俺に何を気づいてほしかったのかという事を探していた。さらには俺は今何に向き合わなければならないのかという事だね





また難しいこと言ってる。ねえ、どこかまたお散歩しましょう?楽しいお話を聞かせて?





すまないが、君の一方的な雑談にはもううんざりなんだ。単刀直入にこの話の些末を話そう。君が死んでから何が起こったのか教えてあげるよ


小暮はナルサワからもらった情報を語り始めた。
この女の幽霊は若本ほの香(享年38歳)
そして天才少年歌手、梅本、本名は若本孝太(享年12歳)であった。



君が話していた橋で身投げした先輩とは君自身の事だろ?大抵女から語り出す知り合いの話は自分の事だからね





さあね。昔の事は忘れちゃったわ





違うね。忘れられないから彷徨っているんだよ、君は。この流れている曲の歌手は梅本孝太、その本名を若本勇樹という。君の生き別れ…いや、今となっては死に別れた実の息子さ。君にも見えるかな?


小暮がスマホ越しに若本孝太の写真を見せる。



そしてこれが君だ


書類を一枚捲ると女、
若本ほの香の写真。
二人とも目元の同じところに泣きぼくろがついている。



もし本当に忘れたのなら思い出して欲しい。この子は歌の才能で君を貧乏から救うために田舎から上京した。君はこの子の出自がヤクザとAV女優の息子だと世間に知られないためにわざと離れた





そんな綺麗な話じゃないわ。
私が貧しさに耐えられなくて、面倒になってあの子を売っただけ。
産んで後悔したわ。
私は母親になる器も資格もなかった。
あの子に暴力を振るい続ける旦那を愛していたし、仕事だろうが何だろうが男にずっと股を開いてボーっとしていたかった。
それしか能が無かったから!だから誰にも抱かれない体になったら死ぬしかなかったのよ!そんな私が母親なわけないじゃない!!


女、若本ほのかは冷たく激情した。
打って変わって小暮は間の抜けたトーンで一言つぶやいた。



お母さんの作ったお稲荷さん





お稲荷さん?


きょとんとするほのかを後目に彼は続けた。



それが彼の好きな食べ物らしい。
これを見て確信したんだよ。
あの種を噛んで、君が思い描いたのは孝太君とお稲荷さんを握った食卓だったんじゃないのかなってね


ほのかは線が切れたようにコンコンと泣き出した。
あの小暮の施術院のベランダで見せた涙よりももっと激しく、
尻尾のような長い髪を振らしながら感情をまき散らした。



母キツネと子タヌキ…むじなを食べたのが運の尽きだったと、このまま俺に憑りついて精気を吸い尽くして殺してくれても構わないが、君はここにいるべき人間じゃないと思うんだ





それでも私には母親を名乗る資格なんてない!





資格なんてはじめからないよ。あるのは親と子という血のつながりだけさ。だから気にせず好きにしなよと言いたいところだが…早く成仏してくれないか。俺が寂しくなる前に


小暮はほのかにフッと笑いかける。



ありがとう。君のおかげでまた粧子を感じることができた。ただ申し訳ないけど、俺は人妻には興味がないんだ。このまま消え去ってくれると助かる





何よ、それ





それとそろそろ俺の運気を返してくれないか?今朝から商売あがったりなんだ





贅沢な人ね。あなたの幸せならそこにあるわ


ほのかに重なった小暮の手のひらを強引に奪う白い手があった。
その主は泥酔していつも以上に笑っている経華だった。



んにゃんにゃ先生!何独りでつぶつぶ呟いてるんですか!ヤナみ事なら私何でも聞きますよ~?こう見えて聞き上手って両親からはメホられるんですよ~





おいおいホント君大丈夫か!?ちょいちょい単語ひっくり返ってるけど





先生、踊りましょ?


続く
