依頼を引き受けることにした僕らは、とにもかくにも依頼人の友人でもある件の彼女に会ってみようということで、佐島さん先導で彼女たちが通う学校へと向かいながら、その友人のことについていろいろと話を聞いていた。
依頼を引き受けることにした僕らは、とにもかくにも依頼人の友人でもある件の彼女に会ってみようということで、佐島さん先導で彼女たちが通う学校へと向かいながら、その友人のことについていろいろと話を聞いていた。



友達は私の幼稚園くらいからの幼馴染で名前は四十八願香苗(よいならかなえ)といいます





いっちゃなんですが、ずいぶんと変わった名字っすね……





そうね……
少なくともこの辺では見かけない名字ね……
もしかしてその四十八願さんのご両親は栃木の人かしら?





えと……確かそうだったかと……
ただ、あまりに昔に聞いた話なのではっきりとは……





そ……
ありがと、続けてちょうだい?


基本的に相手が目上だろうがなんだろうが敬語を省く奈緒に、若干戸惑った様子を見せながらも佐島さんはおずおずと続けた。



彼女……香苗は出会ったときから大人しい子で……
同じような性格だった私たちはすぐに仲良くなりました……
今までケンカなんてしたことなかったし……





なかった、ということは今は違うということですね?


鏡花さんの確認に、佐島さんはこくりと頷く。



はい……
香苗が惚流院佐々木さんの占いセミナーに行き出したころから……
香苗が変わってしまってから、私たちはケンカをするようになりました……





そうなんすね……
先生、これは俺たちで一刻も早く事件を解決して、二人を仲直りさせましょう!


マサヒロが暑苦しい目で僕に提案してくる。



そうね……
仲直りできるできないは当人たちの問題だけれど、確かに被害者が出ているというのを見過ごすことはできないわ……
先生、マサヒロの言うとおり迅速な解決を目指しましょう!


まるでマサヒロに触発されたかのように、奈緒までもが熱く語り始め、顔を見合わせた僕と鏡花さんはお互いに苦笑するしかなかった。
そうこうしているうちに、目的地――佐島さんと被害者の四十八願さんが通う学校に到着した僕らは、そのままずんずんと校門を通過した…………りせずに、校門の前で緊張していた。



なんか、他の学校に入るのって緊張するっスね……





思えば私たち……
他の学校に行ったことってないんですよね……
部活で練習試合とかやるわけじゃないし……


うん、二人の気持ちはよく分かる。
実際、僕だって凄く緊張しているんだから……。
でも、二人はアレだけ殺人事件現場とかをうろちょろできるんだから、今更他の学校程度でそこまで緊張するはずないよね?



本当はそのはずなんスけどね……
やっぱり他の学校って俺らの領域じゃないって全力で主張されてる気がして……





事件現場はまだ探偵として領域だからそこまで緊張しないんですよ……
それに目の前の事件のことで一杯一杯になっちゃうし……


そんなものかな?と僕が首をかしげていると、一足早く佐島さんと一緒に正門を越えた奈緒が僕らを振り返っていた。



先生!
それにマサヒロと鏡花も!
早く来ないとおいていくわよ!!


他の学校へ入るということへの抵抗というか、緊張というか、ともかくそういうものから無縁そうな顔で僕らを呼ぶ奈緒を見て、正直彼女の性格が羨ましくなった僕らだった。
ともあれ、無事に正門を乗り越えた僕らは、生徒たちから突き刺さる好奇の目をできるだけ無視しながら、佐島さん案内の元、今回の事件の重要人物であろう四十八願さんが所属する「占い研究部」にやってきた。



あそこの一番奥にいるのが香苗です……


そういいながら佐島さんが指差したほうへ目を向けてみると、そこには一人の大人しそうな女子生徒がいて、なにやらぺらぺらとカードのようなものをめくっていた。



…………………





なんか、想像通り大人しそうな子ね……


思わず、といった様子で奈緒の口から飛び出た言葉に、佐島さんは軽く頬を引き攣らせながらもゆっくりと四十八願さんの下へと歩み寄る。



香苗……





瑞希(みずき)……
来たのね……
今日はどうしたの?
私に占って欲しい?


あ、佐島さんの下の名前って瑞希っていうんだ……。
そういえば今まで苗字しか聞いてなかった……。
そんなことを考えている間にも二人の会話は進んでいく。



ううん……違うの……
今日はこの人たちを連れてきたの……





あら……
瑞希がお客さんを連れてくるだなんて珍しい……
いいわ……彼らを占えばいいのね?





あなたたちは瑞希の紹介だから……
そうね、特別に一回500円で占ってあげるわ……





生憎だけど、私たちはあなたに占って欲しくてわざわざ他校に来たわけじゃないわ……





僕たちは彼女に、あなたを説得するように頼まれたんです……


瞬間、四十八願さんの目が鋭くなる。



説得?
何を説得するというの?
私には必要のないことよ?





どうせ、瑞希に頼まれたんでしょう?
「香苗は騙されているから助けて欲しい」って……
でもお生憎様……
私は騙されていないし、愡流院先生も私を騙してはいないわ……
だって先生は凄いのよ?
占ってもらう人の悩みも過去もばっちり宛ててしまうんだから……
芸能人からもたくさん占いの依頼が来てるくらいなのに……私たちみたいな一般人を騙してどうなるというの?


熱く語る四十八願さんの目を見れば、例え推理ができない僕にでも分かる。
あの目は騙されているけれど、それとは気付かない人の目だ。
何かに心酔して……、正しいと思い込んで……、心のよりどころにしている、そんな目だ。
……そんなのは悲しいし、見ているこっちが辛い……。
そう、彼女は救われなくちゃいけないんだ……。
だから……。



みんな……





先生の言いたいことは分かります……
私も同じ気持ちです……





俺もっス……





私もです……





うん、ありがと……





じゃあまずは、愡流院佐々木と言う人がどんな人か……会ってみよう……


僕の言葉に、部員全員が力強く頷いてくれた。
