泥宮城。その名とは対照的に、造りのしっかりとした、此方もまた荘厳な城。仮に此方を竜宮城と亀に言われても、信じ切っていたことだろう。

　そんな浦島の考えも、門を開けた瞬間、すぐに撤回されることになる。

　泥宮城の中には、人と呼べる者は一匹たりともいなかった。沢山の、海洋生物がいる。

　その一匹であったスライム状の敵が、見た目とは相反する過激な言葉を言った。すると、彼の言葉を皮切りに、魚人兵が浦島を襲った。

　本拠地と言っても、相手は竜宮城で戦った者共と戦力も大して変わらない。冷静に魚人兵達を一匹ずつ倒していくと、残されたスライム兵達はぷるぷると震えだした。

　スライム兵を竜宮城に向かわせ、浦島達は泥宮城の奥へと進んでいった。

　エレベーターなど、最新的な機械も幾つかあったが、泥宮城は、階段のみで、ルートも一つしかない。その所為で、道中敵と毎度顔を合わすことになり、その度に銭湯を強いられた。これには、流石の浦島や亀も、体力を削られる。

　亀が断固拒否していると、まぁまぁと乙姫が亀の肩を叩いた。乙姫は、浦島の少しおかしい様子を見ても、楽観的に笑っている。

　コイツ、浦島のこと分かっててやってるな。亀はもう笑うしかない。

　浦島はため息をついた。

　その後も三人は疲弊しながら城を進んだ。やっとのことで最上階まで来ると、王の間の扉が見えてきた。王の間へと急ごうとした浦島一行だったが、彼等の前に、一人の魚人が立ちはだかった。

　青い肌をした魚人は、浦島の手を引いて、王の間の一つ手前の部屋へと連れ出した。

　部屋は、無駄な家具がほとんどなく、あるのは部屋の真ん中に椅子が一つだけだった。椅子に浦島を座らせると、下駄を脱がし、魚人が浦島の素足へと手をやった。

　魚人が浦島の足の裏を強く押すと、浦島は激しく悶絶した。分かりやすい反応に、魚人も嬉しそうに笑う。

　その後も、亀と乙姫は魚人のしつこいツボ押しセールスを断ると、気を取り直して扉の前に立った。

　扉の先には、多くの兵と、そして諸悪の根源が待ち構えていることだろう。浦島達も固唾を飲む。呼吸を整えると、その扉を勢いよく押した。

　王の間は、意外にも兵がほとんどいなかった。手前に兵を置きすぎたのだろうか。王の間の奥には、威厳ある風格をした魚人が座っていた。彼が、魚人兵の言っていた魚男らしい。魚人が立ちあがると、ゆっくりと此方へ歩み寄る。

　魚男は後方に下がり、距離を取る。その場から指をパチンと鳴らすと、部屋に隠れていた部下が一気に現れる。浦島と亀が武器を構えると、今まで同様に雑魚兵を倒していく。

　男は両手で指を鳴らす。魚男の両隣から水の渦が現れると、その場所から美しい水の精霊が二人現れた。

　セイレーン、ウンディーネ。聞き覚えのある名前、そして二人から溢れる神々しきオーラに、浦島と亀もつい武者震いする。

　震える足を手で押さえつけると、震えの止まった手を彼女達に向けて伸ばした。

　動けない浦島達の代わりに、先程ツボ押しをしていた魚人が、精霊達の元へと飛び込んだ。精霊二人は浦島同様素足にされると、その場に座らされ、片足ずつ同時にツボを押された。

　浦島の問いの後、ツボ押し魚人が手を離すと、泣いていた二人の表情が緩んでいった。

　嘘でしょ！？　と言いたげに、亀と乙姫が凝視する。あんなに痛そうだったのに、二人はもう一度とツボ押し魚人にツボ押しを要求した。

　ツボ押し魚人がツボを押すと、また泣き叫ぶ二人。しかし、手を離すとやはり幸せそうな顔をしていた。
　その様子を見ていると、亀と乙姫も、ツボ押しがどれ程のものなのか気になってきた。

　ボスを目の前にして、ツボ押し会を始める浦島達。魚男は、列に並ぶ彼等に呼びかける。

　しかし、何度呼びかけても誰も気づかない。

　痺れを切らした魚男は、目をつり上げて怒号を上げた。

　一斉に魚男の方を振り向くと、長い沈黙が起こる。魚男が咳払い一つすると、言葉を続けた。

　魚男の言葉の後、少しの間があったものの、ツボ押し魚人は笑顔で答えた。

　魚男は頬を赤らめると、静かに浦島の後ろへと並んだ。