間の抜けたような声が彼女の口から零れた。彼女の反応もごもっともだ。大して関わりもない男から呼び出され、色々言われた挙句告白されるんだから。



は?


間の抜けたような声が彼女の口から零れた。彼女の反応もごもっともだ。大して関わりもない男から呼び出され、色々言われた挙句告白されるんだから。
彼女は見るからに不快そうな表情で言った。



からかうつもりで呼んだのなら私は帰るわ


そう言って、國澤は俺から背を向け、去ろうとする。だが、そう簡単には行かせない。



待ってくれ! 俺は本気だ!


離れていく國澤の手を俺は掴み、彼女を止める。予期しない行動に驚いたのか、相手からは動揺の色が窺える。それでも、國澤は表情をすぐにさっきの物へと変えた。



だったらなんだっていうの? あなたがそこで私に告白したって私がそれを返事するわけないでしょ!





ああ、そうだ。いつだってそうだよお前は。だから簡単に事情を話すと思わないよ、普段のお前ならな





その通りだよ、義務はないさ。だけど、そうでもしないとお前のことが分からないんだよ!お前が今一体何が必要で何が欲しいのか!





ッ!?


彼女は驚き、こちらへと視線を向けた。お互い視線が重なるが、すぐに國澤はそれを外す。まだちゃんと俺に対しての警戒心は消えていないようだ。だが、少しだけ隙が見えた。



叶えてやる! 全力でお前の願いを!


すると、表情に微かな動揺が窺えた。聞く耳を持ったためか、彼女の反応から手ごたえも感じる。



…………


伏し目がちに彼女は一体どうすれば良いか考えている。この男が本当に自分のことを助けてくれるのか、と。仲の良いクラスメイトに裏切られ、友人もいなくなった彼女にとってはこの選択は非常に厳しいものだ。
だけど、その選択を乗り越えた先にはきっと彼女は報われるはずだと俺は信じている。いや、報われなくちゃいけない。彼女が犯人扱いされた時や、クラスから孤立していたあの頃。俺は彼女のことを助けてやろうとはしなかった。
きっと寂しいはずだったし、苦しかったはずだ。それなのに、俺はただ傍観することしかできなかった。巻き込まれたくもなかったし、クラスの連中の空気から浮くのが怖かった。
でも、きっかけをくれたのが草ケ部だった。あいつが俺に彼女を助けるサポートをしてくれと頼まれた時は、最初こそは嫌だったが、考えるうちに考えも変わった。いつも毅然としていて、頼りがいのある生徒だった彼女がずっとこのままで良いのだろうか?このままでは残りの学校生活やそれ以降の人生も彼女は重りを背負い続けることになる。



良いわけねぇだろ!


何としても彼女を助ける必要があった。それは一個人のただの自己満足であり、偽善であるかもしれない。何度罵られようが殴られようが覚悟はできている。彼女が救われるならなんだってやってやる!



―――いいの?


ぼそっと、何か呟くように彼女は言った。



ごめん、もう一度言ってくれないか?よく聞き取れなかった





友原君のこと……信じて良いの?


彼女は不安気に俺に問いを投げる。無論、彼女に対する答えは決まってる。



おう、バリバリ信じて良いぞ。これでも頼りになる方なんだよ


すると、肩の緊張が解れたのか、不安が解消されたのかは分からないが、彼女は肩をプルプルと震わせて俯いた。彼女の顔の辺りから水滴が零れ落ちているのを見るに、むせび泣いているのだろう。



…………


俺は何も言わず彼女の元へと近づき、肩に手を置く。何もしないよりはマシだろう。友達の段階ではこれが限界だ。



私……友達が欲しい……仲間が欲しいよぉ! 本当の意味で信頼できるようなそんな人がっ……!





ああ、なってやる





寂しいし……苦しいよぉ!





俺が守ってやる


疑心暗鬼に陥っていた彼女の中の本性が涙と共に零れる。どれだけ自分を冷静でいようとしていたか、どうやってこの地獄を抜け出そうか等学校の生活の中での不満を俺にさらけ出してくれた。
彼女が聞いたら怒るが、そのさまはまるで小学生だった。普段自分を抑えている反動なのだろうか、口調がところどころ幼く感じるがそれも俺に対して心を開いてくれた証だ。
数分後、ようやく落ち着きを取り戻した彼女は頬を赤くして目線をこちらに合わせなかった。



う、裏切ったら許さないからね!





心配すんなよ。俺はお前を裏切らない。それだけは保証する


そう、と口をとがらせて彼女は腕を組む。ようやく彼女と和解したことを確認すると、俺は次の話題へと切り替えた。



で、早速聞きたいんだけど浪木が消えたあの日、何か知らないか?





ッ!?





ああ、もちろんお前の言うことは信用するよ。だけど、お前があの日何をしていたのかクラスの皆にはっきり伝えないことには事態が動かない


國澤は露骨に困惑していた。自分の知っていることを吐き出さないことには事態の収拾がつかないと。でも、そんなもの簡単に言えたら苦労はしないのもまた事実。このジレンマこそが彼女を苦しめている要因の一つだ。



…………


やっぱり口を動かそうという意思は見られるが、どうしても怖いのだろう。なかなか言葉が出せないでいる。



何度も言ってるけど、そんなに怖がる必要はないぜ國澤


俺はそんな彼女に励ましの言葉をかける。そりゃあ誰だって一つや二つ言いにくいことだってある。でも、それを打ち明けてこそ初めて本当に友人と呼べるものが出来る気がする。



でも……





大丈夫、その時は俺がお前を守ってやる。全力でクラスの奴からも守る。大人達からも守る。だから勇気を持ってくれ。小さなものでも良いから!


少し考える素振りを見せる彼女。しかし、俺を信頼しようという現れなのか、小さく頷くと彼女は覚悟を決めたように言った。



分かったわ……


一呼吸を置いて、彼女はこう言った。



浪木さんがいなくなったのは嘘よ。今も彼女はどこからか私たちを見てるんじゃないかしら


