人肌恋し
人里より遠く離れた名も無き山。
人に踏み荒らされていない。
そこには一匹の狸が住んでいた。



うぅ……。さみぃ……。





今年は格段にさみぃべ……。
全然餌が見つかんねぇ。


餌を探し雪上をうろつく狸。
しかし、一向に餌は見つからない。
それもそのはず。
本来、豪雪地帯ではないこの山に
今年は記録的な降雪があったのだ。
冬眠の習慣がなかったこの山の住民は
みな、蓄えの必要性を
後悔するだけであった。



誰かいねぇかなぁ……。
寄り添って温まりてぇ。





うさぎのヤツは、こんな日でも元気に遊びに行っちまってるしなぁ……。





……。
うさぎかぁ……。





山を降りたところにいる人間ってやつは
私たちを毛嫌いし、時には取って食おうとする。





人間にだけは気を許してはいけない。





うさぎはあんなこと言ってたけんど……。





んもう、人間でもいいから、この山に入ってきてくんねーかな……。


震える狸の歯がかち合う。



カチカチカチカチ……


