どこまでも続く草原、そこを駆ける一人の子供。その頭には2本の角が生えていた



あはははっ


どこまでも続く草原、そこを駆ける一人の子供。その頭には2本の角が生えていた



そんなに慌てると転ぶわよ





大丈夫、大丈夫!お母さんもお父さんも早く、っうわぁ!


子供は自分の足に引っ掛かり倒れるように転んだ。



まぁまぁ、だから言ったじゃないの


お母さん、そう呼ばれた女性は子供に駆け寄る



うっ………うわぁぁ~ぁ





ほら、泣かないの





うぅ……ひっく、うぅ………





よしよし、良い子良い子。ほらレンもこっちに来て


その女性に見つめられて僕も直ぐに二人の所に行き、子供を持ち上げる



ほら、高い高い~


すると子供は泣き止み笑顔で笑った



ありがとうね、レン





いいよマナ


微笑ましい家族のひととき
これは僕がいつか描いた未来の出来事
だがそれは今の僕にとって夢物語に過ぎなかった
目が覚めると、黒々とした空が広がっている



もう夜になったのか……


僕はすっと立ち上がり、辺りを見渡した。そこには相も変わらず鬼の死体があった。近くに転がる死体からは酷い異臭が漂っている



マナ………





会いたいよ……


僕が鬼ヶ島に上陸してから12時間程度



あの後、どれだけ必死に探してもマナは見つからなかった


絶望にかられた僕は何時間も大声で泣きじゃくった



そのまま泣き疲れて眠ったんだたな


ぐっすり眠れたからか、それとも不安や焦りの疲れがとれたからなのか、僕は凄く冷静だった



僕は眠るまでマナは死んだとばかり考えていたけど、それはおかしい、だって鬼ヶ島にはマナの死体は何処にも見当たらなかったんだから





海に流されたとも考えにくい。


僕は頭の記憶を整理してみることにした



僕が桃太郎にやられるまではマナはあそこに居た筈。………………そういえば、桃太郎にはお供の動物がいたっけな、えーっと、確か……猿…雉…………犬!そうだ犬だ!


そこで僕はある1つの答えを導きだす



もしかして!マナは桃太郎に捕まったんじゃ!





犬の鼻は凄く良いと聞いたことがある、マナが桃太郎に捕まって連れていかれる。その可能性は充分にある!


僕は仮説を確かめるため、再度、マナを隠した場所に向かった



はぁ……はぁ…やっぱり!


マナを隠した場所、その地面には何かが争ったような跡が見て取れた。



1つはマナので、もう1つは桃太郎だろう。ってことは僕の仮説は正しかったんだ





決まりだ………





マナは桃太郎のところにいる!


僕の心には新たな希望が芽生えていた
鬼ヶ島と人間の住む陸までの距離はおおよそ30㎞、人間の力で海を渡ろうとしたら何時間かかるか分かったもんじゃない。一刻でも早くマナに会いたい僕は鬼ヶ島に残っていた食べ物を持ち出して、直ぐに小舟で鬼ヶ島を出た



海が凄く静かだ


嵐の前の静けさ、そんな表現がぴったりとはまる情景。聞こえるのは木板がゆっくりと水を押し出す音だけ



今の内に行けるところまで進もう!





お願いだから何も起きないでくれよ


僕は小舟を漕ぐ力を更に強くした
だが、僕の人生は僕が予想していた以上に波乱万丈なようで
嵐の前の静けさ、この言葉が本当になるのはこの10分後の事だった



最悪だっ


鳴り響く雷鳴、大荒れの海、迫りくる波、神様の悪戯か、それとも僕の運がすこぶる無かったのか、ありえない程の大嵐に巻き込まれてしまった



くそっ!





うわぉっ!!!


もはや小舟の操縦なんてかなう筈もなく
僕は海に投げ出された
海の底に沈んでいく体、必死に手を伸ばすが海面には届きそうにない。



またこれか……


どうしようもない状況、僕は死を覚悟する。



折角ここまで来たのに……マナの居場所が分かったのに……





また人の体に乗り移るのかな……それとも…もう………


そこまで考えて僕は意識を失った



ん、人が倒……い…ぞ?





……………





おい!だ…じょ…ぶか!?





……人の声が聞こえる





海に…流……たのか?とり……ず、家に連れ……こう





………もう少し寝てよう





暖かい


横から伝わる暖かい火の熱に、僕はようやく目を覚ます



ん?ここは……


そこは部屋の中で、横ではいろりの炎がゆっくりと揺れていた



誰かが助けてくれたんだ、感謝しないと





おう!起きたようだな


後ろから聞こえた声に反応するように僕は後ろを向く



えっ!?





おぉ!元気になったか、海辺に人が倒れてるもんだから驚いたぞ





もっ、も…も……桃太郎!?





ん?


そこには僕を殺した張本人がいたのだった
