仙人が住んでいると噂の小屋を訪ねた私たち。
仙人が住んでいると噂の小屋を訪ねた私たち。



ちらっ……





!


そこから顔を出したのは、和服を着た女の子だった。



すみません、ここに仙人さんが住んでるとお聞きして





ふっ……わらわになんのようじゃ?





って、ガキじゃねーか!!





餓鬼ではないのじゃ!! わらわはれっきとした……





あー、わーったわーった。よしよし


頭を撫でるシン。



ひっ! おおおお、男は近づくでない!!


男嫌い。



いろんなお薬を作ってくださるんですよね?





ああ。人助けじゃ!!


それにこの口調。



修行かなにかの一環で?





いやそれがの……聞くも涙、語るも涙なんじゃが





わらわの上役がとある理由で故郷を追放されての。追ってきたはいいのじゃが、途中で帝に見つかり、この小屋に閉じ込められてしもうたのじゃ





そっから出られないんですか?





うむ。条件を出されての。わらわの作る薬で他人を100人救ってやれば出してやるとのことなんじゃ





今、何人目?





まだ三人……じゃ





うっひゃー! あと96人か!!





97人ね。シン、帰っていいわよ





で、その上役様はどこで何をしているの?





んー、この世界に来てることまではわかっとるんじゃが……いったいどこに行ったのじゃろうか。あの人のことじゃから、アホやらかして既に消されてしまったのかもしれん





早く会いたい……ラファ――――





にゃ(誰がアホよ)


そう、彼女は私の部下サリエル。
天界で私の右腕として仕えてくれていた天使。
能力は……地上で言うところの、私が医師なら彼女は薬剤師かしら。
わざわざこの子までこんな目に合わせなくていいのに。
神様、帰ったら絶対ふんづけてやるわ。



わー!! ラファエr





にゃ!(ちょっと! 私は身バレするだけでも堕天なの! 黙りなさい)





?





も、申し訳ない! さ、中へ!!





お、いいのか? おっじゃましまー





おぬしらは、しばし外で待て!!





にゃあ





黒猫たんの飼い主……?





それにしてもずいぶんと若い仙人だわね





そうゆうクレアも、年増の割にめちゃ若く見えるけどな!!


シンは星になった。



で、貴女まで何をしているの





うわあああん! 会いたかったのじゃあ!!





私が戻るまでは、ミカエルのもとへ仕えるように言ったわよね





だって……だって……


サリエルも私には及ばないものの、癒しの力を持っている天使。
それゆえ、神は私の右腕として任命したのだけれど、その一方で彼女は『死を司る天使』でもあり、神が私に付けた見張り役でもあった。
つまり私の堕天が決定した場合、それを執行するのはこのサリエルである。
しかしどうゆうわけか、懐いてしまった。
私が子供には甘いからだろうか。
神お抱えの天使だから生意気なところもあるけれど、時に堕天させた仲間を想い血の涙を流すような良い子でもある。
それにまあ、姉のように慕ってくれるのは悪くない。
この子も私の才能と優しさに触れ、私を拝めているのね。
私ったら本当に天使の鏡だわ。



わらわにもっと、罵倒スキルを教えきってから堕天しなされ





そこなの!?





どっちにしろ帰れなくなってしもーたがの……





100人助けなきゃここから出られない――――だったかしら





そうなんじゃ。神様もいじわるよの





助けるのは人族でなくてもいいのかしら?





ああ。かまわんと言っておった





なら、ちょうど良い話があるわ――





手伝ってくれるのか!?





あのエルフたちだけじゃ100人は達成できないでしょうけれど……まあ私のせいでサリエルまで天界から追放となると夢見が悪いから、最後まで付き合うわよ





ラファエルねえたん~♪





おっせーな。何してんだ仙人とやら





猫たんと入ったっきりね





……ちょっと覗いてみっか!





ダメよ! 鶴が機織りしてたら大変じゃない!





ふむ……あの昔話をさくっと自分流にするキャンペーンに便乗しようって魂胆ね





なんかわからんが、他でやってくれ!





お-またあー♪





にゃあ





あ、仙人ちゃん! それで、お願いがあるんだけど





ほう……魔王にエルフ族が攫われたから力を貸して欲しいと……





まだ何も言ってないけど!!





ひゅ~♪





にゃ(この子、大丈夫かしら……)





じとーっ……





で、魔王に対抗するお薬は分けてもらえるのかしら





わらわに任せるのじゃ!!


私の堕天を免れるための旅は、こうしてサリエルの100人ハッピー作戦も同時進行していくこととなった。
それが私とサリエルにとって、数奇な出会いの物語になるとは、この時はまだ知らなかった――――
