パーティー客にまぎれて食べ物をつまんでいると、群がる人たちからようやく解放された兄上が近づいてきた



菖蒲様に話しかけられてたみたいだね。


パーティー客にまぎれて食べ物をつまんでいると、群がる人たちからようやく解放された兄上が近づいてきた



だから?


無意味なパーティーに出席させられた僕はそっけなく返事をする



菖蒲様も参加者なんだよ。
敵を窺ういい機会だったね。
いつか漣の敵になるかもしれないし。





は?
参加者?
敵になる?
何の?


たまに兄上とは会話が成立しない
兄上は【あちらの世界】について僕よりも詳しく知っているようだが、僕が説明を求めるといつもはぐらかされる
兄上曰く、敵に塩を送る真似はしたくないらしい



また兄上は・・・。


『教えてくれないんだね。』という言葉を言おうとした途端、周囲の空気が一変する
騒音が瞬時に無音となる
まるでこの状態は、時が止まったかのような―、あるいはこの空間だけが切り取られたかのような―、そんな妙な静けさがあたりを支配した



・・・なんだろうね。


そう問いかけた兄上の表情には驚きの色は見えない
一方僕は驚きを隠せず狼狽する



・・・!?
・・・!???





漣、時間みたいだ。


兄上がにっこりほほ笑むと、静かになった空間の先から、コツ、コツとこちらに向かってくる靴の音が響く
モノクロ写真のように凍り付いた人ごみの向こうから、黒ずくめの、しかしやけに色彩感をもった男が姿を現した



やぁ、お二方。
ご機嫌麗しゅう。


しゃがれた声で僕らに語り掛けてきた男は不気味な仮面をつけていた



いつぶりかな、【占い師】さん。
今日は何の用?
もっとも、理由を聞かなくても想定はつくけどね。


兄上はそう言ってちらりと僕を見やる



彼はわからないだろうから。


兄上が再び占い師の男を見据えると、男は僕の方にゆっくりと顔をむける



馨様にはお会いしましたが、あなたとは初めて顔を合わせますね。


へこっ、とお辞儀には乏しい姿勢で男は僕に視線を固定したまま軽く頭を下げた



兄上・・・こいつは・・。





例の【占い師】だよ。


兄上たちに将来僕が最大の敵になると予言し、僕の人生のすべてを狂わせた張本人
その占い師が今、僕の目の前に立っている



本当になにも聞かされてないのですねぇ・・。
お気の毒に。


そのまま男は意味ありげに兄上を見たが、兄上は白々しくも明後日の方向を向いていた



七つの大罪は知っていますか?


ふいに占い師はつぶやいた



・・・今なぜその話を。


僕が問いかけるのを無視して占い師は話を続ける



傲慢―superbia-pride
嫉妬―invidia―envy
憤怒―ira―wrath
怠惰―acedia―sloth
強欲―avaritia―greed
暴食―gula―gluttony
色欲―luxuria―lust。
これが七つの大罪でございます。





だから・・・。





しかしこれはその昔、グレゴリウス一世によって改訂された後の話です。
正確には八つの大罪が存在しました。


占い師はくくくと不気味に笑う



暴食、色欲、強欲、憂鬱、憤怒、怠惰、虚飾、傲慢が本来の大罪でございます。
現在広く認識されている七つの大罪では虚飾が傲慢に含まれ、怠惰と憂鬱は一つの大罪となり、のちに嫉妬が追加されたのです。





兄上・・あいつは一体何の話を・・。





これから始まるゲームについてだよ。





そう、あなたたちにはこれから罪を償ってもらいます。





・・・は!?


突如、大罪について語りだしたかと思えば、さらに意味の分からないことを言い始めたので拍子を抜かれる



あなたがたは前世で罪を犯しました。


突然、重たい声が無機質な世界に響き渡った
それは耳を通さず、直接脳に響いてくるような、逃れられない呪縛のような―、そんな声だった
僕は思わず固まってしまう



どうやら前世の記憶が戻ってないようですね。





前世の・・・記憶・・・?





どれ・・・、あなたの罪は・・・・・・。
まぁ、じきにわかるでしょう。
ああ、例として馨様の罪についてお話いたしましょう。





・・・・勝手に話しちゃうんだ?





おや、失礼。
ダメでしたか?





・・・いいよ。
でも、俺の口から話す。


そして兄上は僕のほうに振り返った



漣は知ってるよね、グリム童話。





・・・なんで?





俺たちの罪はグリム童話に関係してる。
グリム童話はヤーコプ・ルートヴィヒ・カルル・グリムとヴィルヘルム・カール・グリムの兄弟によって作られた作品で今いろんな童話が残ってるよね。





・・・まぁ。





初版は1812年、第二版は1819年、第三版は1837年、続いて第四版は1840年、第五版1843年、第六版1850年、最後に第七版は1857年に作られた。
で、俺たちの罪に関係するのは第七版までに改訂されていろいろな理由によって削除された話。





改訂された話?





Wie Kinder Schlachtens miteinander gespielt haben.





え?





訳すと『子供たちが屠殺ごっこをした話』。
これが俺の罪である【憂鬱】に関係してる。
あらすじはわかる?





聞いたことない。





そう・・・なら話そうか。


『子供たちが屠殺ごっこをした話』
原題:Wie Kinder Schlachtens miteinander gespielt haben.
あるとき、二人の兄弟がいました
父親が豚を潰す様をみた兄弟は退屈だったので、それぞれが『屠殺屋』役と『豚』役となり遊びはじめ・・・
兄は弟を『屠殺』してしまいました
まだ赤ん坊の末っ子をお風呂に入れていた母親は、息子の悲鳴をきいて慌てて駆けつけると目の前でわが子がわが子を殺している様子を目撃します。
激情にかられた母親は、弟ののどに兄が刺したナイフで兄の心臓をついて殺してしまいました
さらにそうして目を離しているすきに末っ子が浴槽で溺れて死んでしまっていました。
そのことに気付いた母親は、全てを悔やんで首をつって死んでしまいました。
そののちに、畑仕事から帰った父親はそれらの惨劇を目の当たりにし、悲しみのあまりに間もなく死んでしまいましたとさ。
おしまい



ね?
最悪な話でしょ?





っ・・。


屠殺(トサツ)
肉や皮などをとるために家畜を殺すこと
それを人間がやった話・・?
グリム童話にそんな話があったなんて
そして、それが兄上の罪



俺は退屈で憂鬱なあまり、この惨劇を生み出した張本人、屠殺屋役の兄の生まれ変わりなんだ。





は・・・、兄上が?





そう・・、俺がやったみたいだね。
前世の記憶は自然とそこに【ある】だけで、全く現実味を帯びていない。
だから、俺でしたなんてはっきり言えないけど・・・・。





・・・。





・・・俺がやったみたいだね


そのときの兄上はいやに不気味な笑顔を浮かべていた
まるで、兄上たちの話で言う【前世の残虐な子供】のような



さてさて話はほどほどに。
【あちらの世界】で皆様がお待ちですよ。





は!?
皆さまって・・・。
それに僕は参加するなんていってな・・!





本当の正義<justice>にはなりたくないですか?


その言葉が、僕の言葉をはねのける
正義―
小さいころから思っていた
正義のヒーローになりたいって
確かな理由なんてなかった
ただ、こいつがいうように、もし僕らが本当に前世で罪人だったならば・・・前世とは相対的なものを求めていたのかもしれない



まぁ、あなたがどう思っていようと・・この運命からは逃れられませんよ。





っ・・・!





さあ・・・贖罪の時間の始まりですよ。





・・・・。


突如、地面から現れた扉は僕たちを誘うかのように開いた
そして僕はその扉の中へと引き込まれていったのだった
つづく
~罪人リスト~
名前、罪状
童話
特技
No.1 漣 ???
『???』
???
No.2 馨 憂鬱
『子供たちが屠殺ごっこをした話』
???
No.3 ??? ???
『???』
???
No.4 菖蒲 ???
『???』
???
No.5 ??? ???
『???』
???
No.6 ??? ???
『???』
???
No.7 ??? ???
『???』
???
No.8 ??? ???
『???』
???



No.1





No.2





No.3





No.4





No.5





No.6





No.7





No.8


