月を見上げ、かぐや姫は悲しげな表情を浮かべる。空に浮かぶ月にもいつもより黒点が多く感じ、どこか悲しげな印象だった。



いよいよ明日じゃのう……


月を見上げ、かぐや姫は悲しげな表情を浮かべる。空に浮かぶ月にもいつもより黒点が多く感じ、どこか悲しげな印象だった。
ついに明日、かぐや姫の記憶が正しければ、夜の10時にはお迎えがやって来るはずだった。



ライト、お主のおかげで楽しい思い出ができたわい。感謝するぞ





命令だからな。俺に感謝されても困るよ


それでも、かぐや姫は本当に感謝していた。やり残したことはない。月に帰ることに、心残りはないままで済みそうだった。



きっとわらわだけではアルバイトなどできなかったじゃろう。そうしたら、お爺さんとお婆さんに何も返せないままじゃった


言って、かぐや姫は右手に持つ小さな壺に目を落とした。



それは……何だ?梅干しでも漬けているのか?


蓋がされている壺を見て、少年は言った。



違うわい。これはな、『不死の薬』じゃよ


少年の問いかけに、かぐや姫は答える。



知識はあった。そして幸いにも月にしかない材料もあったんじゃ。『地球見草』というんじゃがな。まあ簡単に言えば、月見草の月バージョンと思ってよいぞ





その地球見草で不死の薬が作れるのか?





いや、残念じゃがそれだけでは作れんよ。じゃからわらわも諦めておった。それは手に入らぬと思っておったからの


かぐや姫は、言いながら目を細める。その先には、やはり黒点のせいで悲しげな印象を与える月があった。



愛情、も必要なんじゃが、それは既に持っておった。溢れるほど与えられておった。問題は、そう。あれの方じゃった……





あれって、何だよ?


少年の問いかけに、かぐや姫は一度小さく息を吐く。口からは白い息が見て取れた。



あれと言うのはな


そこでもう一度言葉を止め、月を見上げた。気のせいか少し黒点が大きくなっている気がした。月への思いが強くなっているのだろうか。
それを見て、息を吸い。
かぐや姫は言った。



……すっぽんじゃよ





え?





じゃから、すっぽんじゃよすっぽん。「月とすっぽん」とかいう諺があるじゃろう? あのすっぽんじゃ。すっぽんをなめるなよ? あの生物、手に入れようと思うたら以外に高いんじゃぞ!!





え? じゃあアルバイトがしたいって言ってたのも、そのすっぽんを買うために?





当たり前じゃ。お金を貯めてようやく今日買えたんじゃよ。それでさっきこの薬を作ったんじゃ。わらわがいなくなった後の、せめてものお礼の品としてな





すっぽんか。だからキキ様がいくら試しても失敗作しかできなかったんだ。まさか地球の生き物を材料としていたなんて





なんじゃ。今何か言うたかの?





いや、何でもないよ姫様


そう言ってライトは、障子を開け放ち外に出る。
ライトもゆっくりと月を見上げる。彼の目には、黒点は映っていただろうか。月の表情は、どう感じられただろうか。



おやかぐや姫。それにライト君も。もう護衛の者たちは順で万端ですぞ





これで明日のお迎えも食い止めて見せますからね!


そこへ、お爺さんとお婆さんがやって来た。彼らはかぐや姫の最近の元気がない様子を見て、護衛を付けると言ってくれたのだ。
前日から備えて、かぐや姫を守ると意気込んでいた。
そのことをきいて、かぐや姫が何度もお礼を言ったのは、ほんの数日前のことだ。



今夜も綺麗な月なあ





ええ、本当に美しい月ですこと


そう言ってお爺さんとお婆さんは奥の部屋に入って行った。
それを見送って、かぐや姫は月を見上げる。



悲しそうな顔をしておるのう……


ただ、かぐや姫の目にはそう映ったようだ。
だけど、少年は違ったようだ。



そうかな姫様? どうやら俺には……


言って、ライトは月を見上げたままだった。
かぐや姫ももう一度月を見上げる。
そして気付いた。



黒点が、大きくなっておる……いや、あれは


その正体に。



待ち望んだ瞬間がようやく訪れて、喜びに震えているように見えるぜ?





月の民か!?


どんどんと大きくなっているそれは、月から舞い降りた民の大行列だった。
既にかぐや姫の目にはっきりと見えるほどにまで近づいたその行列は、至極賑やかだった。おそらく、『かぐや姫がお帰りになる』ということを祝っているのだろう。



な、何ですかこの音は!?





月のお迎えが、もう来てしまったのか!? ええいっ! 皆の者、目を覚ませ!! かぐや姫をお守りするんじゃ!!!


その騒ぎに気付いたお爺さんの掛け声で、部屋に集まっていた者たちがぞろぞろと家の外に出てくる。
一方で、かぐや姫は彼女の姿を捉えていた。



迎えに来たぞ、かぐやよ





そんな、キキ様!? どうしてここに? 約束は明日のはず!?


キキ様。それはかぐや姫の世話役であり、ライトを地球へ遣わした張本人。
彼女は一際目立つ格好のまま続けて言った。



ふん。元々お前を地球に送ったのも、ライトを遣したのも、全ては『不死の薬』を手に入れるため。それが完成したんだろう? ならばもうお前を地球に置いておく理由は無くなった





そんな!? でもキキ様、私はまだ月には……





よいよい。みなまで言うなかぐやよ


かぐや姫の言葉を、キキは遮る。そして言った。



帰りたくなくば帰らずともよい要はお前は用済みなのじゃ。生きておる意味すらない。じゃからその薬だけ寄越すがいい





それは、嫌です。この薬はお爺さんとお婆さんに送る感謝の印。だからこれは、いくらキキ様でも渡せません





ならばもうよい。お前には頼まん。……ライトよ


キキは最後に冷たく告げる。



やれ


その声を合図に、本当の闘いが始まった。
* * * * *
こんにちは。ご覧いただきありがとうございます。
いよいよ書きたかった闘いの場面に入ることとなりました。ぶっちゃけてしまうと、今までの話しは全てストリエの投稿ページを開いてから考えていたものです。完全に時の気まぐれです。
ですが来週からは、大雑把には考えていた展開にようやく入れるので、少しホッとしています。
佳境に入りましたが、これからもよろしくお願いします!
それでは、今回はこの辺りで失礼します。
もしかしたら次の展開が読めている読者様が
いるかもしれない(-"-;A ...アセアセ
