静かな家の中、晴れやかな声が響いた。



お兄ちゃん、お帰り!


静かな家の中、晴れやかな声が響いた。



おう、ただいま、何か元気いいな


少女が元気なのもそのはず、春に大学への進学のため、一人暮らしをしていた兄が数カ月ぶりに実家へと帰省したのだ。



あれ…ミカ? 父さんと母さんは…


少女の兄、達也は不思議がって家を見まわす。
確かに、妹のミカ以外の人の様子は見受けられない。
特に、時間帯もすでに夜、いるならば物音ぐらいしてもいいのだが…



ううん、お兄ちゃん! お母さんとお父さん二人で旅行に行っちゃった!


そう言いながら、ミカは達也の腕にしがみ付いた。
もともとミカは15歳という年齢ながらも、年相応には見えない背丈。
ちなみに、小さい という意味でだが…
そんなミカが19歳の兄貴の腕につかまるのだ。
それは、もうすでにダッコチャン状態なのだが



あぁ~そ、そうなんだ~、そういや帰る日を伝えたとき渋ってたけど
そっか、そういう意味なんだ…





母さんの手料理、食べたかったんだけどなぁ





むぅ~、ミカだって料理うまくなったんだから!





ホントかぁ? ミカ。
俺が家を出る時は全然料理なんて出来なかったじゃないか





まぁまぁ任せといてよお兄ちゃん。
もう十分準備もできてるんだから!


そのままミカは台所へと歩を進めた。
取り残された達也は、しばし呆然としていたが気を取り直すと



―――ま、とりあえず着替えかな





あ、じゃあお兄ちゃんは部屋に戻ってるといいよ。
お洗濯物はあたしに任せて!


ずいっと両手を伸ばすミカ。



お、サンキュー。
下着は後で洗濯機に入れておくわ





は~い、じゃあこれ、先に洗濯機に入れちゃってOK?





お、よろしく頼むわ。
とりあえず部屋に行ってるよ





はーい、おっけ~


ミカは達也が居なくなるのを確認すると、両手に持った衣類の香りを勢い良く吸った。
今まで兄の来ていた服から、臭いが立ち込める。
ミカはそれを嫌うことなく、すべて鼻から吸い込んだ。



ふふ、お兄ちゃんの匂いだ…懐かしいなぁ…


そのまま顔を達也の服にうずめたときに、一種の違和感を感じた。



この匂いお兄ちゃんじゃない…ううん、男の人の匂いでもない。





女の香り…?





(ふふふ…)





そんな…!


ミカの脳裏には、大好きなおにいちゃんと一緒にいる謎の女の姿が鮮明に思い浮かんだ。



そんなのは……嫌だ





(ふふふ……)





………





お兄ちゃんのそばには
ずっとアタシがいればいいのに…





あっち行け!


