昨日
昨日



というわけだ!





また勝手なことを…


ペオルは副官のミディアンにことの顛末を話した。



バンバンバンバン裏口入団させてると、あのおっかない本隊の鬼隊長にどやされますよ。





いいんだよ。どうせうちらのような小さい部隊なんて見ちゃいねえ、わかりゃしねえよ!





まったくもう、いいですよ。わかりました。でも私も一度ヨブ君に会いますからね。


ヨブを聖教会騎士団に入団させるために、二人はヨブに会いに診療所を訪れた。



ん? あのガキはどうした?





いませんね


しかし、そこにヨブの姿はなく空いたベッドだけあった。



ひょっとしてもう退院したとか?





んなまさか、あいつには身寄りがいないんだぜ。出てっても行く宛なんかないだろうに


ペオルは看護士にヨブのことを尋ねた。



ああ、あの子なら聖教騎士団に引き渡しましたよ。





んぁ? それはおかしいな、俺んとこに何も連絡が入ってないぞ





そうなんですか? 連絡ミスとかじゃないですか?





その連れてった部隊はどこの所属でしたかわかりますか?





えーと、確か十字の紋章が入った騎士団の方々だったと思います。





十字の紋章だと!? それって教皇直属の特務部隊か!





すみません、部隊まではちょっとわからないです。


聖教会騎士団の中には教皇直属の部隊がある。
それは特務隊。戦闘のエリート集団である。
目印は十字の紋章をシンボルにしている。
エリートとは名ばかりの異端者の暗殺や魔女狩り、そういう黒い噂が絶えない血なまぐさい連中の集まりである。
俺とミディアンは一旦騎士団の詰所に戻った。



キナ臭いな





隊長またオナラしたんですか? やめてくださいよ





違うわ! 怪しいってことだよ!


ペオルは診療所から出て詰所に戻ってくるまでずっと考えていた。



なんで教会の汚れ仕事専門の特務部隊が、あのガキを連れてった。何が目的だ?





まさか、特務部隊のこと調べるんじゃないですよね


ミディアンはペオルが何を考えているのか察していた。二人は長い付き合いである。ペオルが黙っているときは毎回何かよからぬことを考えてる時だ。



そのまさかさ





まずいですよ~それは。特務部隊は暗殺集団です下手に首突っ込んだら、そのまま首を落とされますよ





おっさん珍しくやる気だしてるのに水差さないでよ





お前だって腑に落ちないだろう?





それはそうですけど・・・でも特務隊に喧嘩売るのは命がいくつあっても足りませんから





なんかよ、俺らが知らないような裏でとてつもない陰謀を感じるんだよ





またいつもの騎士の堪って奴ですか?





おう!そうだ!俺の堪がよく当たるの知ってんだろ?





ギャンブルはいつも外しますけどね。





それは言うなって





はぁ、仕方ないですね・・・





こんなこともあろうかと先程部下に特務隊の行方を調べに行かせましたから、明日にはヨブ君の行方も分かるはずです。





マジで!?仕事早くない!?





隊長の考えなんてお見通しですよ。じゃないと副官なんてやってられないですから。





もうミディアン君優秀すぎ!おじさんチューしてあげちゃうチュー!





や、やめてください!き、気持ち悪い!!!





嘘だよーん!俺が男とキスなんかするかバーカ!





うわ殴りてぇ・・・





とにかく部下からの情報がくるのを待つか。





でも意外だな。ミディアンがそんなにやる気だなんて、てっきり止められるもんだと・・・





やっぱ陰謀なんて解き明かしたくなるじゃないですか





お、おう


こうしてヨブが連れてったという特務隊の情報が来るまでペオル達は待機した。
【フレンブルク地方 廃墟の村】
そして今日、諜報に出した部下の情報を得た俺とミディアンはここに来ていた。
時間は深夜、人がいない時間帯と少数のほうが動きやすいと踏んで俺ら二人は特務部隊が向かったという場所に向かっていた。



やっぱり行くの? 考え直さない?





ここまで来て何言ってるんですか!


二人は疫病の最初の犠牲となった村に来ていた。そこに住んでいた住人は疫病により全滅していて、もはや廃屋になっていた。だからすごく気味が悪い。



夜中にどこぞの集団がここを通って、丘の上にある墓地に向かったのを見たって人がいました。きっとその集団は特務部隊ですよ





しかし、墓地なんかに何の用があるんだ? あそこには古い遺跡しかないだろうに





これは臭いですね





すまん、屁こいた


ミディアンは鼻をつまみながらペオルをバシバシ叩く。
【フレンブルク王家の墓】



・・・・・・・・・





・・・・・・・・・





・・・・・・・・・





・・・・・・・・・


代々王族の墓地となっている遺跡がある。
そこは王族以外立ち入りを禁止されている場所であるが、黒いフルフェイスの兜を被り、動きやすさを重視したレザーメイルと全身黒ずくめの服装をした集団が遺跡の入り口に駐屯していた。あの風貌は教会騎士団の特務部隊である。



うわーうじゃうじゃいますよ。どうやら情報はビンゴだったみたいですね。


俺とミディアンは特務隊に気づかれないよう遠くで遺跡を見張っていた。



特務部隊総出で警備にあたってるって尋常じゃないですよ。あの遺跡の中に何してるんでしょうか?





こんなところで連中が何してるが知らねえが、コソコソしたくなるような後ろめたいことをしてんのは確かだな。





どうしますか隊長? あれじゃとてもじゃないですが忍び込むのは無理ですよ





着いてこい


ペオルはミディアンを引き連れて遺跡から少し離れた墓の前にきた。誰の墓か知らないが手入れもされておらず、墓地から離れた寂れた墓が一つポツンとそこにあった。



隊長、このお墓がどうしたんですか?





まぁ見てろ。よいしょっと!


ペオルは墓を押す。
すると墓石の下からどこかへ降りる階段があった。



隠し階段!?





ここは王族しか知らない秘密の抜け道だ。この階段はあの遺跡まで繋がってる。





隊長なんでこんなことしってるんですか!?





昔、王族の墓の警備をやってたとき、たまたま見つけたんだ。昔は結構エリートだったんだよ俺は?





わぁ、これは凄いですねー大分歴史を感じますね


得意気に話すペオルを無視して、先に階段に下りたミディアン。



聞いてないのね


ペオルは溜息をつきながらミディアンの後に続いて階段を下りた。
