私が香奈恵さんの死を知ったのは、たまたまスマホで見たネットのニュースだった。
私が香奈恵さんの死を知ったのは、たまたまスマホで見たネットのニュースだった。



建設工事中事故・鉄骨が落下、女性一人死亡
昨日、午後5時頃・港北区の建設中のビルから鉄骨が落下し、下にいた会社員の浅野 香奈恵さん 25歳が死亡しました。
警察は事故を起こした建設会社に現在事情を聞いており──





香奈恵さん……





死出への旅は逃げられない……


あの時のアザミの言葉が頭を過ぎる。



やっぱり死は避けられなかったんだ……


避けられなかったのがツクヨミさんと別れなかったからなのかどうかまではわからない……。
そう言っていたアザミ本人も事故で亡くなってしまっては、今はもう聞く事も叶わない。
でも、これで死の予言は終わったという事だろうか……?



電話……


私の携帯が鳴った。



もしもし……?





あっ! サキちゃん?


電話は宮田さんからだった。



その……香奈恵さんの事……





あっ……はい、知ってます……





そっか……
実は……事故の時、先輩……彼女の目の前にいたそうなんだ……





えっ!? ツクヨミさんが?





うん……それで先輩、相当精神的に参ってしまっていてね……





そう……ですか……





しばらくは、大学も動画配信も休むって……





………………





それでさ、アザミも事故で死んだし、死の予言は終わったんだ。
もうこれ以上調べるのは僕らも止めにしないか……?
早く忘れた方がいいと思うんだ……





そうですよね……
あまりこの事を考えていたくないですものね





うん。
結局香奈恵さんを救えなかった……


電話越しの宮田さんの声は辛そうに聞こえた。
でも私はなんて言ってあげればいいのか、励ます言葉なんて出て来ない。
少しの沈黙が流れ、私はようやく言葉を発する事が出来た。



わかりました……
もう止めましょう





ゴメン……





宮田さんが謝る事は無いですよ~





……本当の事を言うと……
恐いんだ……もう関わりたくないっていう気持ちのが大きくなってて……





宮田さん……


確かに、私も恐い。
突然、出会ったばかりとはいえ三人もの人が死んだんだ。
それだけでも、もう普通ではないのだから……



ああ、そうだ!
サキちゃんの塾の友達にも言っておいてくれないか?
もう話は聞かなくて大丈夫になったって……





明日、塾で話を聞く件は断っておきます





うん、ゴメンねありがとう……
サキちゃんも早く、こんな事は忘れた方がいい





はい……





じゃあ……





はい……





ッ……ツーツー……





…………


電話を切ってから、私は一人考えていた。
本当にこれで終わりなの……?
当のアザミも事故で死んでいる。
もう死の予言は無いのだから、確かにこれで終わりなはずだ。
けれど……、私には妙な胸騒ぎがしていた。
アザミの死は終わりではなく
始まりなのではないかという、確証は無いが
そんな予感が……。



おはよサキ!





サキおはよう





おっはよ~


学校に行くと、一連のアノ事がまるで夢の様に感じて来る。
この平穏で普通の日常こそが私の世界。
アレは全て、現実ではなかったのかもしれない。
宮田さんが言っていたように早く忘れなければいけない、ただの悪夢だ。



そういえばさ~、サキ最近怖い話しないよね





も、もうやめてよ~
聞きたくないないから私ワザと触れないようにしてたんだから~……





怯える美織が可愛いから
聞きたいんだよ~
ねぇ、サキ?





確かにね





も~……二人とも~





ねぇ、新作の怖い話は?
いつもみたくネットで仕入れてないの?
いつもイヤだって言っても話して来るじゃん





……えっ?
あ~、うん……





あっ、そういえばオフ会は?
行くって言ってたでしょ?





あ~っ! そうだよオフ会!
ネットの怖い話が好きな人たちとするって言ってたよね、あれどうだったのよ?
イケメンいた!?





ちょっ、イケメンとか関係無いし!
普通だよ普通の人たち!





な~んだ~……
残念っ!





楽しかったオフ会?





うっ、うん楽しかったよ……





怖~い話いっぱいしたんでしょ~?
聞かせなさいよ





いっ、いいよ聞きたくないよ~





あはは、それがね
怖い話はそんなに盛り上がらなかったから普通にカラオケして終わったんだよね~





えっ!? そうなの~?
な~んだ……





ほっ……
良かった


友達には言えない。
死の予言。
アザミ。
それは、この平穏を自分から崩してしまう様なものだ。
その時、ふいに私の脳裏に浮かんだのは離れて暮らすお兄ちゃんの事だった。



小さな頃から不思議な力があった霧斗お兄ちゃん。
今は精神を病んでしまっていて病院にいる。


お兄ちゃんに相談してみようか?
でも、巻き込んでしまったら?
それに、コレはもう終わった事だ。
私は、結局誰にもこの話をする事は無かった。
それから、数日が過ぎたある日──
私のアノ予感が的中する出来事が起きる。
塾へと向かう電車の中で、私の携帯が振動したのだ。



宮田さん……?


どうしたというのだろう?
私は電車を途中で降りて、電話に出てみた。



もしもし……
宮田さん?





サキちゃん? 良かった……





どうかしたんですか?





……あのさ、まだ断って無いかな……?
アザミの話を聞く件なんだけど……


電話越しの雰囲気からはまるで何かに宮田さんが怯えている様に感じる。
様子がおかしい……



まだです……
今から塾で、今日断ろうと思ってて……





まだだ……





えっ?





まだ、終わってなかったんだ……





あの……終わってないって一体何がですか?





多分、この呪いはまだ終わっていない……





……えっ


その時、私の目の前を快速電車が通り過ぎていった。
