伊月先輩の溢れんばかりの詭弁愛は伝わったが、俺にはもう一つ疑問に思った事があった。



君は、我が詭弁部に入りたまえ!





何故そうなる!?というか、そもそも





詭弁部ってなんですか?





ん?てっきり君は、詭弁の意味を知ってるもんだと思ったが…………詭弁というのは、主に説得を目的として、命題の証明の際に、実際には誤りである理論展開が用いられている推論。これ!詭弁部なら暗記必須だよ!





いや、詭弁の意味を聞いてるんじゃなくて、詭弁部がどのような部活か、ということです。





それは言葉の通り、詭弁を愛し、詭弁を誇りに思い、詭弁に埋もれる。詭弁家の詭弁家による詭弁家の為の、詭弁を言い合う部活だ!





全然、言葉通りじゃねえ……


伊月先輩の溢れんばかりの詭弁愛は伝わったが、俺にはもう一つ疑問に思った事があった。



詭弁部なんて部活動紹介の時にありませんでしたよね?


流石に一ヶ月前の事を鮮明に憶えているわけではないが、こんなに変な人がいたら忘れるわけない



それは当然だ、俺が見込んだ奴じゃないと入れたくない





なんとも自己中な…………そして俺はまんまとその見込んだ奴に選ばれたのか………ついてねぇ……





因みに、条件とかあるんですか?詭弁好きとか?





ない!俺の独断と偏見で選んでいる。異論は認めん!





ですよねぇ~


条件があれば、それに至ってないからとか適当な事を言って退散できたのに



それも詭弁で説得されそうだな


とにかく色々詰んでいた



いや、僕は結構です。





そうか!差し支えないか!





あ、これ悪徳商法でよくあるやつだ


結構ですには
1:差し支えない 2:不要である
の二つの意味合いがある。



狡い奴は「いらない」の意味で言ったのに、わざと「構いませんよ」という意味合いで捉えるんだよな。こういう時はキッパリと断るのが定石だ。





俺は詭弁部には入りませんよ。





雨宮君は部活に入っているのかい?見たところそうは見えないけど……


見た目で帰宅部と判断されたのに多少は苛立つものの、正しいので何とも言えない



確かに部活には入っていませんが、詭弁部に入る気もありません





何故かな?





…………今はそういう気分じゃないので……


別段、そういう気分が俺の中に存在するわけではないが、それ以上に忘れかけてた先程の失恋を頭の中で鮮明に思い出してしまった



……………………





………………………





…………ふむふむ、察するに、想い人に振られたのかな?





っ!!?





あ、いや、ごめんごめん。これでも鋭さと頭の回転は早い方でね。雨宮君の心の傷を抉るつもりはなかったんだ。





……………………


気まずい空気が辺りを包む、伊月先輩も俺の気持ちを汲んでくれたらしい、それ以上の詮索はしてこなかった………



悔しくはないか?





えっ?


………何てことはなく、俺の心の内側に侵入してくる



一度振られたからといってあきらめるのは、ただ次も振られるのが恐いと感じてるだけの臆病者だ。君は臆病者じゃないだろ?なら何度でも告白するくらいの意気込みでいかなきゃだめだ。





………それも詭弁ですか…





さあね


伊月先輩の言葉が本当に詭弁かどうかなんて俺には分からない。でもその言葉は、少しだけ、ほんの少しだけだが、俺に勇気を与えてくれた



どうしたら………いいんですか?





そうだな、先ずは言葉を巧みに操ることだ





言葉を……ですか………





あぁ、何かで見たのだが、恋で大事なのは第一印象らしい。何でも8割を占めるとか……





8割…………ってそれ





俺、望み薄じゃないですか!





ん?そうか?





そうでしょ!第一印象が告白なんて……





最高じゃないか!





最悪じゃないですか!


最高と最悪、俺と伊月先輩から出てきた言葉は正反対の言葉だった



はっ?最高?





それは勿論、これも何かで見たのだが、告白されてからその人を意識して好きになるケースがあるらしい





そ、そうなんですか!





あぁ、この世に告白してくれた人を意識しない女性がいるだろうか?





だとしたら雨宮君、君は既に第一印象の8割を手にしているも同然だ!





うおぉぉぉぉぉぉぉ!


後から振り返ったら、これこそ詭弁だろ!と自分に言いたくなるが、疑いもせずに俺は伊月先輩の言葉に乗せられていった



だったら、次は第二、第三の印象を良くするのが必然!それに欠かせないのは何度も歩み寄る勇気と、人を楽しませる話術だ!





それにはどうしたら?





……………………





伊月先輩?





ふふっ、はははっ、それこそ決まっている!再度君、に問おう!


伊月先輩は、それでもかという暗い息を吸い込み、思いっきり叫んだ



雨宮君!君は、我が詭弁部に入部しろ!


冒頭となんとなく似ている言葉に
それでも俺は、冒頭とは違う言葉で返事をした
