3日後、僕はピスガの頂に続く道の途中にいた。
ミカル姐さんの言うとおり、なだらかな山道がどこまでも続く。
3日後、僕はピスガの頂に続く道の途中にいた。
ミカル姐さんの言うとおり、なだらかな山道がどこまでも続く。



よし、待ってろよドラゴン!!


不安がないといえばウソになる!
だが、ここで弱気になる訳にはいかない!
この山の先に、4年3か月
ずっと探し求めていたアロンの杖があるのだから!



ラケル、もう少しの辛抱だぞ!兄ちゃんが何とかしてやるからな!


僕は、故郷にいる妹のラケルと老いた母のことを思い出していた。



お兄ちゃん、早く戻ってきて!!





気を付けていくのよ!!


悪疫に罹った父を看病したせいで、妹のラケルまでも感染してしまったのだった・・・。
母とラケルを残して旅に出るのは忍びなかった・・・。
だが、このままでは確実にラケルの命はない!
そう考えて、僕は第4次遠征隊に志願したのだった。
もしかしたら、既に母とラケルもこの世にはいないかもしれない・・・。
だが、僕の働きで村のみんなが助かるのなら・・・
これまでの旅は無駄にはならない!
そう考えて、僕は必死にピスガの頂を登っていった!



よし、あと少しで頂上だ!!行くぞ!!


残りの山道を一気に駆け上り、
僕はついにピスガの頂へと出た!!
だが、そこにあったのは思いもがけない光景だった!



な・・・何だこれは!!


そこには、巨大な動物の骨と、それを囲む何体かの人骨があった。
さらに・・・その奥の祠には・・・



あ、あれは・・・


あの紫色の宝玉は・・・間違いない!
探し求めていたアロンの杖が、無造作に転がっていた!
思いがけず、僕は何の苦労もなくアロンの杖を手に入れてしまった!!
アロンの杖さえ手に入れば、こんな岩山に長居は無用だ!
僕は、湧き上がる疑問を抑えつつ一目散にミカル姐さんの家へ戻った!!



ただいま戻りました~!!





おかえりなさい!!





やりました!!このとおり、アロンの杖を手に入れました!!





本当だ!!やったわね!





はい!これで村は救われます・・・
ですが・・・


僕は思い切って、ミカル姐さんにピスガの頂から
ここに来るまで、ずっと抱いていた疑問を投げかけた。



ミカル姐さん・・・





ピスガの頂には、ドラゴンの骨と人骨しかありませんでした・・・。あの人骨は第3次遠征隊の方のものですよね?





もしかして・・・





本当はミカル姐さんは・・・





ずっと前にドラゴンを倒していたんじゃないんでしょうか?





・・・・





そうよ・・・私は2年前にドラゴンを倒してるわ・・・





何とかピスガの頂までたどり着いた、他の第3次遠征隊の5人の命と引き換えにね!





だったら・・・だったらなぜ・・・





こんなところにずっと留まっているんですか!!





アロンの杖さえ手に入れれば、もうここに長居は無用でしょう!
こんなところに一人残って、いったい何をしているんですか?





今、村がどんな状況か分かってるんですか?村のみんなは、誰もが僕らの帰りも待ちわびてるんですよ!


こんな裏切りがあっていいのだろうか!!
誰よりもレヴァントの村のことを考えていたミカル姐さんが・・・
アロンの杖を手に入れてもなお、
悪疫を恐れて一人
こんな辺境に留まっているなんて・・・
助けを待ちながら
死んだ村のみんなや、犠牲となった
第3次遠征隊の仲間たちのことを
ミカル姐さんは、一体どう思っているのだろう?
僕は、怒りのあまり全身が震えていた。
ミカル姐さんは、そんな僕を黙って見つめていた。
と、ふいにミカル姐さんが僕に問いかけた。



何人で来たの?





は?





第4次遠征隊は、何人で村を出発したの?





よ、47人です・・・それが何か?





そう。私たちのときは38人だから・・・
それよりもまた増えてるのね・・・





あの・・・何が言いたいのでしょう?





あんたには、往きの47倍強くなったっていう自信あるの?





あっ・・・!!


何ということだろう!!
僕はアロンの杖を手に入れることに頭がいっぱいで・・・
帰りの行程について何の考えも持っていなかった!!
この世界には、都合のいい魔法なんてない!
4年3か月かけてたどり着いた場所から戻るには、
当然ながら4年3か月の年月が必要だ。
そしてこれもまた当然ながら・・・
ここに来るまでに遭遇した凶悪なモンスター達とも再び戦わなければならない!!
往きは大人数で数に任せて仕留めたモンスター達を・・・帰りは僕たちたった2人で全て倒さなければならないのだ!!
いくらこの旅を通して、僕の剣の腕が飛躍的に上がっているとしても・・・
今、村の屈強な若者47人と戦って勝つ自信は全くない・・・
つまり、レヴァントの村にたどり着ける望みはほとんどない!!



フフ、ようやく私がここに留まってる理由が分かったみたいね・・・





そ、そんな・・・僕はどうしたらいいんですか





残念だけど・・・どうしようもないわね





幸いこの家の周りには凶悪なモンスターは現れないけど・・・





半日も歩けば、もうあのドラゴン並みの怪物がうようよしてるわ!





そうですか・・・


認めたくないが・・・ミカル姐さんのいうことは本当だろう。
なぜなら、僕がミカル姐さんの家を見つける直前の一週間は、それまでになく凶暴なモンスター相手に毎日死を覚悟する日々だったのだ・・・。



そんな・・・せっかくアロンの杖を手に入れたのに・・・





で、でも・・・まだ希望はあるわ・・・





この辺りは気候が温暖だから、2人で暮らす位なら十分な食料が手に入るの!





今の私たちの実力なら5、6人でパーティーを組めれさえすれば、誰か1人くらいは村に辿りつけるはず・・・





だから・・・焦らず次の遠征隊が来るのを待ちましょう!


思いがけず、助けに行くはずが助けを待つ立場になってしまった・・・。
本当に運命とは皮肉なものだ!



くそッ!!こんなバカなことがあるかっ!!


僕もミカル姐さんのいうことが正しいと頭では分かっている。
でも到底納得できなかった!
僕は、ミカル姐さんの家を飛び出した!!
