ずっと探していた。広い街をさ迷いながら、1人の少女を探すために何時間も歩き続けた。
ずっと探していた。広い街をさ迷いながら、1人の少女を探すために何時間も歩き続けた。



兄様……





愛佳、無事でよかった


そしてようやく出会えた。なにやら赤い液体が付いていて、地面に干からびた物体がおちているのだが、まぁ、今は妹との再会を喜ぼう。



兄様!





お、とっと


激しく抱きしめられ、身体がよろける。相変わらず愛佳は元気のようだ。俺に優しい笑みを見せてくれる。嬉しい。だから、俺も精一杯抱きしめた。



1人で平気だったか?





いいえ兄様。私はすごく寂しかったです。突然兄様がいなくなってから、血眼になって探してました。一体どこに行かれてたんですか?





それが俺もよく分かってないんだ





なんと! そうでしたか。しかし許せませんね。どこの誰だか分かりませんが私と兄様も愛を遠ざけようとするなんて!





あ、愛?





ええそうです。私と兄様は愛によって結ばれている夫婦のような関係です。そうですよね兄様?





あ、うん。そうだね





不愉快ですから、その者を殺しに行きましょう





俺の妹ながら物騒すぎる……


なんというか、愛が重い!



クンクン、充電も終えました





……ところで、愛佳は今現在に於いてどこまで状況を理解してる?


ふえ? とそんなマヌケな声を出す妹は、どうやら何も理解していないらしい。そんなことはないと祈りたい。



私は兄様を探すことしか考えていませんでしたから、なにか事故でもあったんですか?





そうだな、落ち着いて周りをみろ


ふえ? と2回目の奇声。



な、なな、何ですかここは! 一体どこですかここは!





ええ……今更?


やっぱりというか、俺は愛佳の将来のことが心配になってきた。



状況を説明しよう


ここは日本ではないこと。誰が何の目的があってこの世界に閉じ込めたのかということ。俺達以外にも日本人が存在していること。詳細は分からないが変な能力を持っている奴がいること。その能力はこの世界の住人全員が使えるかどうかということ。
この世界にはダンジョンとやらが存在していること。
それらを愛佳に説明した上で、ふと愛佳はポツリと呟いた。



まるでゲームのようですね。ほら、RPGですよ。ダンジョンという言葉でた以上ここはファンタジーなんじゃないですか?





ゲーム、か。俺そういうのうというんだよな





簡単に説明すれば、ダンジョンに潜むモンスターを問答無用で殺戮していく話ですよ。ゲームによって違いがありますが、レベル制だったりポイント制だったり、あと熟練度制があったりしますね





ごめん、全然意味がわからない





ようするに、モンスターを殺しまくってプレイヤーを育成させるゲームです。推測しますに、この場合でのプレイヤーは間違いなく私たちでしょう





んーまぁ、言いたいことはわかったよ。だが、俺達を育成させてどうしたいんだ?目的が見えない





ダンジョンということなら四六時中に攻略がカギでしょうね





攻略?





私の知っている知識では、ダンジョン100層で攻略という話がありますが、所詮は憶測、この話が事実とは限りません





帰れる方法はあるわ。ただ、その条件が難しいの。ほら、よくあるでしょう? 魔王を倒せば元の世界に帰れるとか、100層のダンジョンをクリアできたら帰れるとか


そういえば、桐里朱音もそんなことを言っていたことを思い出した。。



まぁしかし、あの男がギルド協会に行けと言ったのも頷けますね





あの男?





ええ、実は―――





あれーカケルくんだ!


偶然なんだと思う。彼女は、キズナちゃんは偶然の再会に嬉しそうに笑っていた。しかし、俺は今それどころではなかった。



カケルくんはこんなところで何してるの? もう遅い夜だからお外にいたら危ないんだよ?


彼女は動揺に気付いてくれない。というかこのまま回れ右に進んでどっかにいってほしい。どうにも、その願いは叶うことはなった。



兄様、この人は誰なんですか? どうして兄様の名前を知っているんですか?





愛佳、とりあえず聞いてほしい





なんですか?





俺は浮気なんてしていない





ええ知ってます。知ってますとも。兄様と私の関係は夫婦同然。別にそんなことを疑っているわけじゃないんですよ


はたして、実の血の繋がった兄妹と結婚ができるはずがないという気持ちを喉元まで出かかったところでなんとか耐えた。いま迂闊に言葉を漏らすのは自殺行為に等しいだろう。



で、この人は誰ですか?





初めまして、キズナはキズナといういいます。カケルくんとはさっき友達になりました





あなたには聞いてません





あらら、嫌われてしました……





そうだな、彼女とはさっき知り合いになった。が、友達という点では全くもってなった覚えはない。





会話を交わしたので友達当然です





……だそうだ





まぁ、兄様が誰と友達になろうと兄様の自由ですから、私は反対はしません。好きにしたらいいじゃないですか。浮気じゃないんですよね?





ああ、ボクは愛佳を愛している





私もです。兄様





ほえー、ラブラブなんですね


キズナにとって俺達はラブラブらしい。ラブラブというより、一方的に愛を押し付けられているという表現の方が正しいかもしれない。
愛佳は、そうでないと気が済まない。そうでないとならない。でないと、愛佳は簡単に壊れてしまうのだ。
俺に愛されないと壊れてしまう妹。
なんだか俺が己惚れているみたいだけど、決してそんなことないのだが、まぁようするに俺は彼女に恋なんて抱いていない。
あくまでも妹として接している。妹としてみている。そりゃあ付き合えたらどれだけ幸せなことか。
けれどその幸せは叶わない。だってボク達の関係は、結局は血の繋がった兄妹だから。
さて、こうしてキズナが目の前にいる。しかも彼女は都合の良いことに友達だと思ってくれている。
なら、それを有効活用しないわけにもいかないだろう。



ところで、お前はここでなにをしているんだ?





えーとね。集会が終わったから家に帰るところだよ?





へー





カケルくんと……えーと、綺麗なお姉さんはここで何をしてるの?





綺麗なお姉さんとは、ずいぶんと見え透いた嘘をいうガキですね。私を煽てて何か企んでいるようですよ兄様?





いや、愛佳は俺から見ても可愛い女の子に見えるけど?





そ、そうですか。ありがとうございます……


嬉しそうにクネクネと動く愛佳だった



キズナちゃん。この子は北野愛佳、俺の妹。





ここで何をしていたのかという訳じゃなくてね、離れ離れだった愛佳とここで再会したんだ。





そうだったんですか。それは良かったです。知っている人が無事なのか分からないのは不安が積もるばかりですから。それも妹だったなら尚更だと思います。





うん、ありがとう。それでもさ、再会したのはいいけど、実は俺達はさらに困った窮地にいるんだ。なぁ? 俺達は友達だろ? なら助け合わないといけないと思うんだ





確かにそうですね。ドンとこいです!


この子はあれだ。純粋すぎる……。しかも困っている内容をまだ言っていないのにこの自信。もし、俺がキズナちゃんの身体を求めたらどんな反応するんだろう。
まぁそんな要求はしないけど。というより間違いなく愛佳に殺される。よかったな、俺が普通の人で。



実は身体を休める場所を所持していない。自分たちの家がないんだ





カケルくんは今日この世界来たとアカネお姉ちゃんから聞きました。ですので住む場所がないのは理解できます。ところで、アイカお姉ちゃんそうなんですか。


アイカお姉ちゃんも、今日この世界に来たんですか?キズナは訪ねて首を傾げた。



そうだよ





……





おい、黙るなよ





すみません兄様。スタンガンはいま手持ちにありません





そういう問題じゃないからな?


固まった彼女を痺れさせて、強制的に動かす魂胆なんだろうけど、良い子は決して真似しないように!
そもそもそんな過激な発想は愛佳だけか。



すみません、少し驚いちゃいました。えへへ





おいコラァ、兄様が訪ねているのに無視するとはいい度胸じゃないですか。あァ!?





あはは、怒ったアイカお姉ちゃんも可愛いです





よく分かりませんが兄様。この人ムカつくんで殺ってもいいですか?





駄目





チッ! おいガキ、救われた命に感謝しやがれです





はい、ありがとうございます





……


なんというか、いろいろとすごい女の子だった。どんな物騒な言葉にも怯まない胆力がある。俺はとりあえず、愛佳を叩いた。



ど、どうして叩くんですか……?





俺は物騒な女が嫌いだ。なら、殴られる理由は分かるよな





……はい





お前を嫌いになりたくない。だからそういうのは止めろ。





……ごめんなさい





俺に謝ってどうする





ではこんな人に頭を下げろって言うんですか?兄でない他人に。私は嫌です





……そうかよ。……悪いなキズナちゃん。こういうやつだけど大目に見てやってほしい





人が怒る時、必ず理由があります。怒りの矛先が私に向いているというのは、きっと私に非があったんだと思います。ですので愛佳お姉ちゃん、ごめんなさい





……やれやれ、どっちが大人なんだか





ふん……





おい、どこに行く





少し気分が悪いです。その辺を散歩でもしてきます





わかった。すぐ戻ってこいよ





はい……


干からびたようにトボトボと歩き、元気とはかけ離れた様子だった



私はもしかして嫌われちゃったんですか?





たぶん……





私は愛佳ちゃんのことが好きですよ?





あいつは誰よりも人が苦手なんだ。嫌っていると言っていい





少し聞いてもいいですか?





過去のことならなにも教えられない





あらら……





悪いな





ではいつか教えてください。私としては友達を支えていきたいですから。支える為に、もっとお姉ちゃんのことを知らなくてはいけませんから


会話を交わした人は友達。
彼女にとって愛佳とは既に友達として含まれているようだった。



お前は真っ直ぐで正直な奴だな。まぁそうだな、約束する





えへへ


真っ直ぐな性格だからこそ、騙されやすい性格でもある。今こうして、俺に騙されているように。
いつの時代だってずる賢い者は甘い蜜を味わい、正直者は苦い思いをするもんだ。
なんて、まだ生まれて二十歳にもなってない若輩者が、知ったように語るにもまだおこがましい。
しかし、俺はそれでも、知ったように語れる経験を積んできたつもりだ。
それはつまり、世界がそれだけ酷く腐っていることを表している。
人生を語るのは年ではない。経験こそ語れる権利があるんだ。
だからこそ、俺も愛佳も、そんな世の中を嫌い続ける。



カケルくん?





なんでもない


ボーとしていた様子に、キズナは覗くように俺の顔を見る。



それでだが、さっきの話に戻りたい





身体を休める所がないって話ですね





そうだ、どっかあてでもあるか?





でしたら、私がお世話になっている宿屋があります。そこでならどうでしょう。きっと力になってくれると思います





ならそこでいい。案内してくれ





はいです!


ということで、キズナが厄介になっている宿に行くことになった。
愛佳の鼻は良く効く。
嗅ぎ付けて俺の居る場所まで辿り着けるだろう。



……


ふと彼女は固まった。視線を向けているのは転がっているソレ。
人の死体、それもずっと前から置き去りにされているように干からびている。
何故それがいまだにここにあるのかは分からないが、キズナにとって刺激的すぎる物だということは嫌でもわかる。



それでは行きましょう


しかし、思っていたような展開にはならなった。
何事もなかったかのように、興味すら皆無で、まるで死体の存在がそこになかったかのような笑顔。



……そうだな


それでもというか、やっぱりというか。
仮に死体があったとしても、それについてキズナは何故驚かないのかも、俺には関係ないことであり、どうでもいいことだった。
そうして、そう思いながら、宿屋へ向かった。
