《Strictly confidential》
※流出厳禁。取扱いには十分注意すること。
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2126年7月1日、内モンゴル自治区ゴビ砂漠に半径2mの球状の構造物が落下。同日地球に接近した惑星探査船と思われる巨大構造物の一部と推測されたが、その用途・機能は一切不明。
当初、人工衛星との衝突により破損・分離し、当該構造物が地表に落下したと考えられていたが、中華人民共和国が自国の領空内に巨大構造物が侵入した際に、核兵器による攻撃を行ったとの非公式情報もあり、原因については未だ特定されていない。しかし、上空180kmで核兵器が本来の威力を発揮できるのかは疑問である。
現在、当該構造物はグルーム・レイク空軍基地第16倉庫に保管されている。



それで、永遠とも思える群青の闇を超えて、わざわざ文明レベルの劣る異星人に会いに来た、理由は何だ? 僕らから学べるものなど何もないだろう





それなんだけれど……


――ガチャ



おい! シグナスまだ起きているだろう。飲み直そうではないか……





……シュヴァン!?
また厄介なタイミングで……






なんだ彼女は? お前、幼女趣味があったのか。流石に誘拐はまずいと思うぞ。友人として忠告しておくが……





違う! 断じてそんなことは





冗談さ。お嬢ちゃん、お名前は





レダ。ヘレネ星から来た、異星人です。以後お見知りおきを





ははは。異星人だって? 面白いお嬢ちゃんだ





何かあなたを愉快にさせるようなことを私が言いましたか?





なあシグナス、洒落たジョークだと思わんかね。ワレワレハ、宇宙人ダ、ってか。君に姪っ子がいるとは聞いていなかったが





……





なんだよ、シグナス。黙ってないで何か言っておくれよ





ジョークなどではありません。私は正真正銘、異星人です。直接的証拠を提示できないので、信じてもらわなくても結構ですが





異星人……。お前もしかして、2年前の





皆さん、それを聞きたがるのですね。
そうです。あの惑星探査船は我々の星の所有物です。あなた方の星を調査するために送られた





なんてことだ……





ははは……。この娘のジョーク、なかなか機知に富んでいるだろ





お前たちの目的は何だ! 侵略か!





おい、シュヴァン……





侵略……?





そうさ、侵略! お前たちは、我々を虐殺し、捕虜にし、この星の資源を掘り尽くすつもりだろう





いい加減にしないか……





……それに一体なんのメリットがあるの?





なに……?





あなたたちは下等な知的生命体よ。私たちにとって、何の脅威にもならない。可哀相な存在に対し、そんな可哀相なことしないわ





なんだと……! この……





シュヴァン! 悪いが帰ってくれ……





うるさい! 言われっぱなしで帰れるものか!





出てってくれ……!





おい! シグナス! ちょっ


――バタン



はあ……





厄介な人ね





君の言うとおり、酒を嗜む文明はレベルが低いのかもしれないな





理性の箍を外さなくとも快楽を得る方法はいくらでもあるわ。もう少し文明が発達すればの話だけれど





僕が死ぬまでにこの星でも発明されればいいがな





……安心したよ





?





君たちの目的は、やはり侵略じゃなかったんだな





もし私たちの脅威となり得る文明レベルであった場合、先制攻撃を仕掛けることもあるけれど、あなたたちの文明はまだ発展途上。前回の量子スキャニングでよくわかったわ





まあ、あんなメッセージを送ってくる異星人が、野蛮なことを仕掛けて来るとは、はなから思ってはいなかったが





メッセージ……?





『我々が孤独であった29億年の月日を思えば、104年など、〈―翻訳不可―〉のようなものだ。ただ浜辺にて、空を見上げ、返事を待つ。
――隣人【neighbor】より』
君たちの星から送られてきたメッセージだ





へえ。そんなメッセージが





……知らないのか





ええ





ああ、そうか。
『大人のすることは分からない』、だったな





大人? こんな駄文を書かないわ、大人は





……え。では一体誰が





きっと子供の悪戯よ





悪戯……? そんな!





あなたたちの星からの信号をキャッチした子供が、ふざけ半分で返信したのよ、きっと。翻訳不可能な部分があったのも、添付されていた言語体系とは異なる、逸脱した文章をわざと書き込んだんだわ





嘘だ……





まあ、いいじゃない。悪戯だろうが、あなたたち以外に知的生命体がいることが判明したんだから





僕らの浪漫を返してくれ……





そんなことはどうでもいいわ。いい加減私の願いを聞いてもらってもいい?





え? ああ。もう好きにしてくれ。殺人犯の身代わりにでも、借金の連帯保証人にでもなってやるさ





あなたが見つけた恒星、私が見つけたことにしてほしいの





……





は?





あなたが見つけた恒星、固有名『シーニュ』の命名権を私に譲ってほしいの





……そのためだけに地球に来たのか?





大事なことよ。私の第2学期の2単位がかかってる





君にとっては大事かも知らんが……





第4周期夏季休暇中の宿題なの。
「我々の住む銀河系内で、新しい恒星を発見し、名前をつけなさい」
条件はGRの識別コード一覧に登録されていない恒星であること。光学望遠鏡のみを用いること





はあ……。宿題ねえ……。
どれほど文明が進んでも、子供は夏休みの宿題に苦しめられるのか。
『シーニュ』か。あんな陽炎みたいな儚げな星、よく光学望遠鏡だけで発見できたものだ。天晴れだよ。僕が先生ならそれだけで君に『優』を与えよう





光学望遠鏡とは言っても、あなたたちが持っているような、太古の遺品みたいなものと性能が違うから





……悪かったな





宿題の為だけに、律儀に地球まで僕に会いに来たわけか。ご苦労なことだ。地球に来る手間を考えれば、他の新しい星を探した方がよかったんじゃないのか





いや! あの星がいいの





そうかい。意外と君は頑固なんだな





大体、惑星探査なんかするのがいけないのよ。折角、苦労して恒星を見つけて、あとは名前を付けるだけだったのに、『地球』という辺鄙な星で、『シグナス・ホワイト』という、うだつの上がらない天文学者が既に見つけてたなんてことがわかってしまったから……





心証が悪くなるぞ、そんな言い草。命名権を放棄するかは僕の気分次第だ





……ごめんなさい。
いくらGRに加盟していない、下等……失礼、発展途上の文明星とは言え、勝手に命名権を奪い取るのはよくないと思ったの。筋は通さないと





一生懸命探したのよ。私、勉強苦手だから、ここで挽回しないと、って。
夜は寒いし怖いけど、星を見るのは嫌いじゃないから……





……





……そうか。君たちも空を見上げて、星を探しているのか。……僕らと同じように





了解。見つけ次第、保護し、生体転送を行う





今度は人間様の不手際の後始末かい





我々の想像主だ。仕方ないだろう、ブラザー





迷子ー。迷子ー


To be continued...
