すうすう、とつばさが穂波さまの尻尾を嗅ぐ。



でも、ちょっと獣くさいかも


すうすう、とつばさが穂波さまの尻尾を嗅ぐ。



な、なにを言うておるのじゃ! というか嗅ぐでない!





穂波さま……まさか





まさかとはなんじゃ





お風呂、いつ入りました?





別にいつ入っても良いじゃろ





……穂波さま、いつ入ったの?





……神に風呂など必要ないのじゃ。水浴びもしておるしの


ああ、山の神さまがあまやかしてお風呂に入れない光景が目に浮かぶ。



穂波ちゃーん、お風呂はお風呂は?





はいらーん





わかったわわかったわ~





お兄ちゃん、穂波さまをお風呂に入れていい?





奇遇だな、僕もつばさにお願いしようかと考えてたところ


察しのよい妹で助かる。



うん、じゃあ穂波さま捕まえておくから、風呂沸かしてきてー





了解





ちょっと待てお主ら、何を勝手に話を進めておるのじゃ!





はいはい、穂波さまーしばらくじっとしててね?





いーやーじゃあああ!


穂波さまの叫び声を聞きながら、僕は風呂場に行く。
入浴剤とかどうしようか。バスロマンでも入れておこうか。そんなことを考えながら。
そしてアラームによってお風呂が沸いたと知らせが入った時、つばさが僕に尋ねた。



お兄ちゃん、穂波さまの尻尾って何で洗ったらいいかな。犬用シャンプー?





人用シャンプーで良いんじゃないかな。犬用ってたろうのが残っててても使用期限すぎてるだろうし





そっかぁ





尻尾って待てお主ら、まさか全身洗うわけではなかろうな?





うん





そのつもりですけどー





やっぱりうちに帰る、神域に帰るのじゃあああ!





だーめ、お風呂いこー


ずるずると、つばさに引きずられていく穂波さまだった。
というかすでにつばさが穂波さまキラーになっているような気がするのは気のせいだろうか。。
そして小一時間後、髪をバスタオルでターバンのように包まれた穂波さまが風呂場より帰還、すぐにカーペットへ倒れこんだ。
服はつばさのお下がりの、黄色いパジャマだ。



うう、洗われたのじゃ、隅々まで……耳の先から尻尾の先まで


しっかりつばさに洗われたのか、尻尾は前より輝いて見え、丁寧にブラッシングされたのか、その毛並みは砂漠の風跡のようだった。
そのあと、つばさが風呂場より帰還。流れるように穂波さまをカーペットから抱きかかえ、ソファーに座る。



お兄ちゃんお兄ちゃん、穂波さま洗うの大変だよう! ただでさえ長い髪と四本の大きな尻尾!
乾かすのも大変だったよう、湯冷めしそうになったよう





妹よ、先に着替えてから乾かしたらいいんじゃないかな





あ、それもそうだね。くしゅん。でも楽しかったよう





ふむ……。つばさ、今後とも穂波さまのお風呂をお願いしていいか?





うん、いいよう!





また洗われるのか!?





さすがに尻尾は毎日洗わないけど、体と髪は洗ってあげるよう





いやじゃあ!





でも、穂波さま。湯船に使った時、すごく幸せそうだったけど





うぐ





どうなの、穂波さま?





し、しかたないじゃろ。
あんなに広い湯船なんて初めじゃし?
お湯の温度も良い加減じゃし?
ま、まあ、また浸かれるのであれば、体を洗うのもやぶさかではないのじゃ





やった!


穂波さまの素直でない言葉に、つばさは大いに喜んで、また穂波さまをぎゅっと抱いた。
