建物から出てきたカジがキムとパクに何か話かけている。
……
……
建物から出てきたカジがキムとパクに何か話かけている。
さあ、車は一台使っていいから、ここは俺達に任せて、マスターは子供たちの所に急ぐんだ
振り返るとカジはマスターに向かっていった。
あんたら三人で大丈夫か？
ああ、大丈夫だ。もう奴らには手出しはさせねえ
わかった、恩に着るよ。カジさん
カジに手を上げマスターが運転席に座る。
助手席にハルト後部座席には、ヤマサキ、ユキオ、ヒトミが乗り込んだ。
じゃあ、またな。ハルちゃん、先生
マスターが運転するワンボックスが広場を離れアジトの出口に向かう。
動き出した車の背後で矢庭に激しい炸裂音と銃声が響いた。カジ達の一斉攻撃が始まったのだ。
派手におっ始めたな
マスターがルームミラーに映る閃光を見ながら嘆声をもらした。
運転しているマスター以外は後ろを振り向き耳を劈く激しい銃声を聞きながら息を呑んだ。
数百メートル走るとワンボックスは繁茂した雑木林の中を通る未舗装の道路に差し掛かった。
生い茂った林の脇を通り抜けるとき一本の木の上から何者かが車のルーフにふわりと飛び移った。
それは一挙一動、見事な身のこなしであった。
車中の誰もがその事に気付く事はなかった。
雑木林を抜けるとワンボックスはアジトの敷地を出て峠車道を下りだした。
港まではどのくらいかかる？
ハルトがマスターに訊く。
そうだな急げば四十分ってとこだな
そう言いながらマスターは腕時計を見る
───午前三時十五分
夜明けまでには間に合うな
あんたら家族を救いだした後はどうするつもりだ？
しばしの沈黙の後、誰に言うでもなく ユキオが口を開いた。
もうネオシティにはいられねえな。政府が絡んでるんじゃあな。この街にいたらどの道俺たち家族は消される運命だ
マスターが答えた。
あんたらがこの街から出ていくっていうなら、俺も一緒に行かせてくれ、頼む
かすれた声でユキオはマスターに懇願した。
ユキオ、何いってんの、あんた、この街の外がどんな世界か知ってんの？
ヒトミが穏やかでいられないという声色でいうとユキオの強く腕を掴んだ。
ああ、姉貴、そんな事はわかってるよ。でも俺はもうここには居たくないんだ
勝手にすればいいさ。ただこっから逃れる事ができるならの話だ
マスターが連続する急カーブにハンドルを忙しく左右に切りながらそういった。
───ネオシティ、いや、この国から脱出する方法がないわけでもない
ユキオてめえ、いい加減な事いうと車から引きずり降ろすぞ！ 四方を海に囲まれたこの国からどうやって出るっていうんだ。このワゴンで海を渡るっていうのか？
マスターが叫ぶようにいう。
昔、仲間から聞いた話だが、密出国を手助けするシンジケートが存在するらしい
何だって、適当な事言いやがると承知しねえぞ、こら
ルームミラーの中のマスターが眼をつり上げた。
そいつは嘘つくようなヤツじゃねえ！
ユキオも声を荒げる。
よし、そこまで言うならそいつの所に連れて行け。レイコ達を救いだしたらこんなクソみたいな国からとっととおん出てやる。おい、ハル。もちろんお前も一緒にだぜ！
───オレは行かない
ハルトの冷ややかな声。
ハル、何いってやがる、お前だってこの街にいたらいつかは殺されちまうんだぜ
マスターの顔が曇った。
母さんはもう死んでたんだ。今のオレには生きてく目標はもうない。オレは今まで一人だった。これからも一人だ。───ただ一つだけはっきりさせたい事がある。その為にオレは此処に残る
ハルトがヤマサキをうかがう。
……
ヤマサキは腕組みして沈黙を守っている。
一体何なんだ、ハル。そのはっきりさせたい事って───
オレに母さんを殺させたヤツを見つけ出すことだ
ハルトの眼が光った。
……
マスターは驚愕の顔で絶句する。
───静まり返った車中の沈黙を破ってユキオが口を開く。
シンジケートにはオレのダチに話をつけてもらう。ただ───
ただ、なんだ？
金がいる
いくらだ？
具体的な金額はわからねえ、ただまとまった金がいることは確かだ
ふざけんな！ そんな金があるわけねえじゃねえか！
ユキオに怒声を浴びせるマスター。
オレに考えがある
なんだ？ 言ってみろ
あんたの家族は今、港の倉庫街にある廃ビルに監禁されてる
誰に監禁されてるんだ！ お前たちの仲間か？ 手荒な真似してたらぶっ殺すぞ！
いや、ヨシオカっていうやくざの手下が二、三人交代で見張ってる。その部屋に現金が詰まったアタッシュケースが置いてある。俺達があいつらのシャブをさばいて集めた金だ。相当な金額だ。新しいシャブを手に入れる為の取引に使うために用意してる。どっちにしろあんたの家族助け出すなら奴らと一戦交えないといけねえ訳だから、ついでにその金かっぱらえばいい
そんなに簡単にいくのかよ？
大丈夫だ、奴らにオレは顔が利く。奴らオレがあんたらと組んだことは知らないはずだ。オレが油断させてる間に襲えばうまくいくと思う
ユキオお前何か企んでねえだろうな。もしお前が裏切ったら？
そんときは姉貴を好きなようにしていいぜ。姉貴が人質だ
よし、わかった
ただ口の利けねえＣ国人がいたら、そいつだけには気をつけた方がいい。
───ありゃ本物の狂人だ
