真山はハッとして看護師、
真山美代子の冷ややかな視線に
気づきバツが悪そうに言った。



おうおう先生!だいぶおせーよ。汗だくになっちまったじゃねえか!診てもらう前に干上がっちまうところだったぜ





いつだって汗だくじゃないですか?





うるせえなあ、こまけえ事はいいんだよ!ところで、誰その子?俺のファン?彼氏いる?





いたらどうするのかしら?


真山はハッとして看護師、
真山美代子の冷ややかな視線に
気づきバツが悪そうに言った。



ジョ、ジョークだよハニー。
久々に知らない人間が来るんでついテンション上がっちまってよお





今日バイトの助手として来てくれた織原経華さんです。こちらが今日の患者さんの真山仁選手だ





選手?





おいおい、お嬢ちゃんプロレス観た事ないのかい?


経華の目の前に近づく真山。
おでこに残る無数の傷や
縫い目に圧倒されて凍り付いてしまう。
それから舌を出し、
両手の中指を立てて



サンキューな!!


と大声を出して
決めポーズをとる真山。
その迫力に加えて、
飛んだ真山の唾が顔や服に
べっちゃりくっついて凍り付く経華。



ひーん!前方からいろんな飛沫が!!





どう、かっちょ良すぎて濡れたろ?





でーいっ!


経華のお尻を触ろうとする真山の手に
美代子が空手チョップを叩き落とす。



痛ってえよ、ギブギブ!病院送りにされちまう





ここ病院ですけど?まあ、あんまりオイタが過ぎるようでしたら隔離病棟という選択肢もありますがいかがでしょうか?





にゃんにゃん先生!何なんですかこのワイルドな患者さんと看護師さんは!?





ん?一応、プロレスラーと看護師の夫婦?いや、野獣と調教師かな





どっちも正解じゃないですか?





ちげえねえや


経華も独り取り残されまいと爆笑してみせる。



まあ、掴みもオッケーって事でよ。ちょっくらシャワー浴びてくるから待っててな





相変わらずマイペースですね





そりゃおめえ人を待たせるのがスターだろうが





ゼア!





ごめんなさいね、小暮先生。すぐ戻りますから


美代子に小突かれながら車椅子を押され、
高笑いで部屋を出る真山。



まあ、ちょっと一服しながら説明するよ


という小暮の声に導かれ、
経華はベランダの端にある
喫煙所へとやってきた。
小暮がたばこを燻らせながら
どこか懐かしむような目で語り始めた。



❝花火玉レスラー 真山仁❞というのが彼のリングネームだった。
彼が火花が飛び散りそうなくらい激しいヘッドバットをする。
会場の隅々までゴンッていう鈍い音が響く。
それが打ち上げ花火のように会場を一気に興奮の渦へと巻き込む


小暮が懐かしそうに語り始めた。
続く
