


不意に殺意が湧くなんて……当たり前じゃない?人間なんだから。





殺してやる。





これは私の復讐劇。





殺してやる。





優しかったあの人を殺す復讐劇。





誰にも止められない。
準備は整った。始めるんだ。
私の復讐を……。





これがせめての……。





償い……。





…………。





今朝はとても目覚めが悪かった。
何だっただろう……あの夢……。
夢で聞いたあの声、どこかで聞いたことがあるような?





いや、気のせいだろう。





とにかく、今日は私にとって大切な日だ。
晴れて蓮夂華劉(れんしゅうからう)は、大学生になるのであります!





早く準備して、大学に行かなければ。





入学早々……。





まさか追われる身になるとは思わなかった。





上級生に声をかけられたと思ったら、突然「同好会に入らない?貴女が入ってくれたら、同好会にも沢山のひとが入ってくると思うの」と言われ、慌てて断ろうと思ったら……次々と勧誘してくる上級生の皆さん。





断るタイミングを失ってしまい、私は逃げるという選択肢を選んだ。
隣には巻き込んでしまった、私の親友がいる。





何とか逃げられたね、劉。





彼女の名前は、硫安三葉(りゅうあんみつは)。三葉は中学時代からの付き合い。
私の数少ない理解者だ。ポニーテールと大きな瞳がチャームポイント。





私は頷いて、逃げ込んだ部屋を見渡す。





まだ入学したばかりで、あまり大学内は把握出来ていない。デスクに沢山の資料が積まれている事から、事務室っぽい感じがする。
でも、先生らしき人はいない。





と思ったら、ドアが開いた。
入ってきたのはせんせいだった。若い爽やかそうな先生。





…………。





でもなんだろう?
先生の周りのオーラが黒い……。





一度は、気のせいとは思っても先生の黒いオーラは、見え続けていた。
瞬きしても黒いオーラは、はっきりと見えている。





私は三葉に問いかけた。





黒いオーラ?そんなの見えないけど。





あれ、君たちは……。なぜ指導室にいるんだい?





爽やかな笑顔で問いかける先生。
しかし周りの黒いオーラは、大きくなっていく。この黒いオーラは私にしか見えていないようだ。





ここは、指導室だったんですか。私たち、まだ入学したばかりでよくわからなくて。





私は、とにかくここから出ないといけない気がした。





へえ、君たちが今年の……ね。僕は、ここに来て二年目になる、上江永俊(かみえながとし)。指導室の担当でもあり、日本史の担当だよ。





日本史の先生か。何か意外。





私は、蓮夂華劉。こっちは硫安三葉です。





ぺこり。





私たちはぺこりと軽く頭を下げた。
上江先生は、笑って「これはご丁寧にどうも」と言った。





こんなにもいい先生なのに、なぜ黒いオーラがあるんだろうか。
私は不思議でたまらなかった。





どうだい?せっかくだし、お茶でも。





いただきまーす!





ちょっと三葉。すみません。せっかくですが、私たち急用を思い出したので。





私がそう言った途端。
上江先生の周りを取り巻く黒いオーラが、一部具現化してきた。
具現化した一部は、形を変えて手のような形へと変わった。





まるで私たちをこのまま帰さないように。





怖い。すごく嫌な感じ。
あんなにほんわかしていた空気が嘘のように変わった。





黒い……感情が指導室を包み込む。





私は三葉を見る。
でも相変わらずの表情。何も感じていないのだろうか?





何も見えないの?





私……だけ?





助けてくれる人なんていない。
そう思った。





でもその考えは、違ったのだ。





失礼しますよ。





指導室に入ってきたのは、多分上級生の男性。
その上級生が入った瞬間、指導室を包んでいた黒い感情が薄くなった。





でも上江先生の周りにある黒いオーラはなくなっていない。
それどころか、あの上級生がきたことで益々黒いオーラが濃くなった気がする。





明神(みょうがみ)じゃないか。なぜここに?





やだなあ、上江先生。先生が俺を呼び出したんじゃないですか。





そう言って、明神先輩は悪戯っぽく笑った。そして真っ直ぐ私の方へと近寄ってきた。





そうか。君が幻視者(げんししゃ)か……。





よくわからない事を言って、私の顔をじっくりと見ている。





あの、顔が近いですけど……。





おっと、悪いね。





幻視者ってなんですか?





君は、あの黒いオーラを取り除きたいか?





私の問いかけを無視された……。





可能であれば……ですけど。





"可能であれば"か、良かろう。君に託すとしようか。俺の手を握って。





私は驚いた。見ず知らずの人の手を握れと?





でも不思議なことに、私は上級生の手を握った。





目を閉じてごらん。そして、イメージをするんだ。上江先生を。黒いオーラを。





私は言われた通りにやった。
上江先生と黒いオーラを何となく、不器用ながらもイメージする。





これが初めての幻視であった。





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