落ちていく感覚。否、浮いているのだろうか。
身体を引き裂かれる感覚に悲鳴さえ上がらない。
……裂かれているのだろうか……当てはまらないミルクパズルを一回リセットしてばらして組み直すような、そんな感覚。
落ちていく感覚。否、浮いているのだろうか。
身体を引き裂かれる感覚に悲鳴さえ上がらない。
……裂かれているのだろうか……当てはまらないミルクパズルを一回リセットしてばらして組み直すような、そんな感覚。
ミルクパズル? リセット?



なんだそれ……


組み上がった瞬間、狭い器に入れられた衝動があった。



!!


目を見開く。眼前に広がったのは半透明な何かだった。



……あれ、俺死んだんじゃ……





もしかして生きてた!?


慌てて起き上がると半透明の物体に頭突きをしてしまった。悶絶しながら再び横になる形になる。
自分は狭い空間に入れられているみたいだった。
七瀬は手探りで出口を探すと、液晶パネルのスイッチを押した。
音とともに透明な物体は消失する。
慎重に身体を起こすと、辺りを見回す。どれもが『あの世界で』みたことがないものだった。



ここって……天国か?


それにしては殺風景で寒々しい。
銀に輝く床に足をつけると素足に寒さが浸透してくる。



うん?





素足?


慌てて鏡になるような壁に向かうと目を剥いた。



俺……か?





いや……俺だ


自分の姿を認識して、記憶がフラッシュバックする。
確信した足取りでその場所に向かう。
一際大きな扉。そこに手を翳すと空気が抜ける音がして扉が開いた。



おや……目覚めてしまったんだね


椅子を軋ませながら男がこちらを向いたが、七瀬の目には映っていなかった。男の背後に浮かぶスクリーンにくぎ付けになる。
そこに映るのは慣れ親しんだ世界だった。武具を持った男達が忙しく動き回っている。その中に、見慣れた顔を見た。



もみじてめぇ!





激昂しているところ悪いが、こちらにも興味を示してくれないか?





あいにく男をガン見する趣味はねぇ





君、言い性格しているね。被験体774……あちらの名は、七瀬だったか……ナナ同士で覚えているよ





気持ちわりぃな





なんとでも言えばいいさ。しかし忘れないでくれよ


男は親指でバックのスクリーンを指差す。



お前が好きだったこの世界は、俺が作ったんだからね





架空現実に新たな世界を構築するプロジェクト……今の今まで忘れてたぜ





おや、記憶が完全に戻ったのかい?





さぁな


目をぎらつかせながら七瀬は指を鳴らす。



そんな殺意を露骨に出さないでくれよ。感謝されてもいいだろう俺は。だって、滅びしかない世界でひとつの名案を授けたのだから





バーチャルの世界で生きればいい。実際行ってみて居心地はよかっただろう? β版でも





だから早く、確固たる現実にしよう





それが、姫取合戦か……思い出した





その世界を確固するものにするための鍵……生贄となる少女を選出するための争い。β版に選ばれた時はゲームの世界で楽しみだなって思ったが





実態はただ哀しいだけだ。誰も彼も幸せそうな顔はしてない


仲間たちは喪って泣いていた。架空の世界でも彼らにとっては……七瀬にとっても現実だった。触れ記憶が消されて、確実に現実と錯覚させるためのプログラムだとしても、それ以上に現実として根付いている。
姫取合戦をしなくても七瀬にとっては確固たる現実だ。
その現実の中で不要だったのは…………
あの日が蘇る。初めて人を斬った日。
彼女は自室で貴王姫の枠から外れた。まさか囲っていた武器を持つ者の一人に斬られて終わりとは。



俺があの貴王姫を殺したのはその生贄に相応しくないと判断したから。でも何も感じなかった訳じゃない





それ、とても良かったよ。そう来たかって膝を打ち鳴らしたさ





しかしその後、君は俺の支配からすり抜けた





それから似たような奴らが四人。起爆剤がいるから……一応探したよ





そしたらどうだい? 変な奴がいるじゃないか。敗戦した貴王姫の集合体か何かかアレは


アレの単語に七瀬の中で何かがブチ切れる。
彼女の顔が浮かぶ。家事をやらせろとうるさい、貴王姫の存在理由を無視した、手の温かな少女。



もしよければ教えてくれないか、彼女の存在を。面白じゃないか


高笑いを上げそうだった科学者は七瀬の攻撃に吹っ飛んだ。機械を巻き込んで崩れ落ちる。



俺はお前らの玩具なんかじゃねぇ! あの世界で生きている人間だ!





あいつもそうなんだよ!! お前らの被験体になるのは終わりだ!! 俺達がぶっ壊して世界、創ってやるよ!!


